15 怒り
轟音と突風が同時に起こって僕は帽子を押さえることを忘れていた。
今まで壁に付いていた松明の灯りだけで薄暗く、窓もないジメッとした空間に新鮮な空気と光が思い切り流れ込み、僕の帽子と溢れていた涙はもう手の届かないだいぶ離れた場所まで飛んでいってしまった。
相手の3人も全員被っていたフードが脱げ、全貌が露になった。
アドルフという人は若干白髪が混じっているが整った髪をしていて、とても博識そうな人。
シモンは髪を全部後ろに下げていて少し強面の近寄りがたい人。
ロイはその大きな身体と大雑把な性格に見合ったどこか優しさを感じる垂れ目の人だった。
僕がその3人をマジマジと見ていると、今まで僕のことは全く見向きもしていなかったアドルフは急に僕の方を一点に見つめ、険しい顔をした後にロイとシモンに向かって何か指示を飛ばしたように見えた。
ロイはまた兄さんに向かって走りだし、シモンは苦しみながらも立ち上がった。
そしてロイとシモンに対し魔法を唱えた。
「強制加速」
すると二人の速さが大幅に上がり、瞬きする間もなく兄さんとの距離を拳が届く距離まで近づいた。
「何度来ても何人で来ようと結果は変わらないぞ。」
兄さんはそう言うと右手の剣でロイの戦斧を受け止め、左肘と左膝を使ってシモンの打撃を止めた。
その時、ロイがアドルフに向かって叫ぶ。
「アドルフ様!今です!」
その言葉を聞いたアドルフはロイ、いやロイの戦斧に対して魔法を唱えた。
「強制超重力」
魔法を唱えると戦斧は青黒く光ったと同時に兄さんが戦斧を受け止めている右半身に強大な力が懸かっているように見えた。
兄さんは「重っ!」とリアクションをとったが、まだなんとか耐えられそうな雰囲気だ。
「強制転移」
すかさずアドルフが魔法を唱える。
その魔法はまたもやロイに向けていたようで、ロイはその魔法を聞いた瞬間に戦斧から手を離し、ロイだけが消えた。
そして僕の目の前に現れた。
「えっ」
僕は何の反応も出来なかった。
「おおぅ!?本当にそこから耳が生えてんのか!すげぇ!!」
ロイは驚きながらも長く大きな腕を伸ばして僕に触れようとしてきた。
突然のことで足が全く動かない、腕だけは反射で動いたので顔の前に出して防御した。
そして強く目を瞑ってしまった。
結局知らず知らずの内にここまで来たけど、ここで兄さんの足手まといにしかならないで殺されてしまうのかな・・・。
そう思いながら暫く目を閉じていたけど僕の体には何も触れてこなかった。
恐る恐る目を開けてみると目の前には大きな木でできた壁が迫り上がっていた。
そして壁の向こう側から兄さんの聞いたことのないドスの効いた声が聞こえる。
「おい、今何をしようとした?俺の弟に手を出そうとしたよな?なぁ?ぶち殺すぞ。」
そう言っている間に木の壁は所々赤黒く滲んでいき、時間差で上から目を瞑る前に見た大きく長い腕が落ちてきた。
喉の奥から声が出そうになったけど咄嗟に口に手を当てて我慢した。
だけど声を出さないようにしていた僕とは真逆に壁の向こうからは叫び声が聞こえた。
「ああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!」
血が混ざっていそうな悲痛な叫び声は僕のお腹の中まで響いた。
「うるせぇ黙れ。」
そう兄さんの言葉が聞こえた後に鋭い風切り音が鳴ると、壁のすぐ裏側から「ボトッ」と何か大きな物が落ちた音が聞こえた。
状況が全く分からない。兄さんはどうなったのだろうか、この目の前にある木の壁はどこから来たものだろうか、他のシモンとアドルフは・・・。
腰が抜けてしばらく座り込んでしまっていたけど現状を把握しないと・・・、そう思い木の壁に手を突いて立ち上がり、壁の向こう側を覗いてみた。
見てすぐに、見なければよかったと思ったのは記憶の限りではこれが初めてかもしれない。
それくらいに周りの地面や壁には赤黒い液体が飛び散り、一人は片腕が潰されたようにねじ切れていてその痛みに耐えるように地に膝を付けて大量の汗を流している。もう一人は木の壁にいくつもの剣に突き刺されたまま片腕と下半身が綺麗な断面で切り落とされてもうピクリとも動かなくなっていた。
僕はその惨状を見て思わず嘔吐してしまった。
そんな僕を見て兄さんは握りつぶしたのであろうシモンの片腕をゴミを捨てるかのように投げ、血に塗れた綺麗な顔で優しく、怖い笑顔を見せた。
「ルカ、危ないから、下がっていて。」
そう言うと兄さんはアドルフの方を向きロイに刺さっていた複数の剣の一つを抜いた。
アドルフはシモンの方へ歩き、シモンに対してこちらでは聞こえない何かを言うと、ねじ切れた片腕に何かしらの魔法をかけ、片腕が黒いオーラに包まれた。
そしてアドルフも兄さんの方を向き、お互い睨み合いになった。
「酷いことをするねぇ、私たちは別に君たちを殺したいわけではないのに、素直に話を聞いてくれればお互い無傷で済んだんだ、マテウス、君の弟にもね。」
「誰が喋っていいと言った?俺じゃなくルカを狙った時点でお前らに生きてていい権利なんてないんだよ。」
アドルフの言葉に兄さんは食い気味で反応した。今にも何かが起きそうなとき、壁に穴が開いた方向からイブの疲れ切った声が聞こえてきた。
「マテ・・・ウス!相手は無属性の魔法使いです・・・。無属性魔法は補助に特化した魔法なので本人の魔攻力や魔防力はたいしてないはずです・・・!」
疲れ切ったかすれ声だけど、しっかりと僕や兄さん、アルドフの方にまで聞こえる声で話している、だけど兄さんはイブを全く見ず、全く反応せずにただアドルフをずっと睨みつけていた。
そして止まっていた時間が再び動き出した。




