14 マナ
ロイとシモンはどちらもマナ持ちだ、二人とも私が直接説得して引き入れるほどには彼らのマナや身体の能力は買っている。
そんな子たちがここまで苦戦するとは思わなかった。
マテウス、聞いたことの無い名前だ。
まだこの世界に来て間もないが、一通りの有力者たちはこちらの私と調べ尽くしたと思っていたが・・・。
そう考えている内にシモンは再び思い切りマテウスに殴りかかる。
マテウスは殴りかかってきたシモンの右手を左手で見事に受け流しつつ腕をガッシリと掴んで引き寄せ、思い切りシモンのみぞおち目掛けて膝蹴りを食らわせた。
「ガッッッ!!!」
マテウスの膝蹴りをモロに受けたシモンは膝から崩れ落ちた。
だがシモンはただ適当に殴って反撃にあったわけではない、彼には策があったのだ。
今までの戦闘から真っ向勝負では勝てないことを見越していた彼はただ殴っただけに見せかけ、受け流されることを先に予測し、彼が崩れ落ちる時に受け流された右手でマテウスの両足全体をがっしりと掴んだ。
「なにっ!?」
そのまま脱力するかと思っていたであろうマテウスはシモンの頑丈さに驚いているな。
「シモンのマナ【超越】、圧倒的な攻撃力と防御力を持つっていう単純だけど強い能力だねぇ、それでも彼は一人では勝てないと察して君を拘束することにしたんだ。ロイ、今のうちに畳み掛けるよ。」
ロイは私の方を向き、少し大げさに頷くと戦斧を持って再びマテウスとの距離を縮めた。
今度は私も応戦しよう、マテウスの方に魔杖を向ける。
「強制停止」
パラライズ、指定した相手の動きを完全に停止させる魔法。
停止させられる時間は魔法の質と私の魔力量、相手の強さと魔力量によって大幅に変わる。
私の魔力量は自慢ではないが一般人の10倍程度はある、そして私自身の"マナ"により私の魔法は最高練度にまで磨き上げられているのだ。
一般人に対してだと大体1週間は抗えずにピクリとも動くことが出来なくなるが・・・。
私が唱えたパラライズと共にロイが戦斧を振りかざす。
―――――――ガンッ!!!!――
それを見たとき、私は久しぶりに冷や汗を垂らしていた。
マテウスは一瞬止まったように見えたがすぐに動き出し、先程まで使い物にならなくなっていたはずの右手でいつの間にか剣を携えてロイの戦斧と交えていたのだ。
「悪いね、斧はあんまり好きじゃないから剣にさせてもらったよ。」
ふぅむ、マテウスの近くに刺さっていたロイが最初に持っていた戦斧が無くなっている。
現実的に考えてあり得ないことだ、そうなるとマテウスはマナ持ちということになる。
問題はそのマナの能力だ、シモンと似たような単純に自身の身体能力を上げるマナであればシモンにも力負けしない強さに納得もするが、今目の前で起きた『戦斧が消え剣が現れた』ことと『マテウスの右腕が治っている』ことが説明できなくなる。
マテウスの右腕がそもそも無傷だったということも考えられるが、今までの行動から右腕が使えないと思わせた意味が分からない。
ということは身体能力向上系のマナではないだろう。
そうなると考えられるマナは・・・。
「マテウス、どうやら君もマナ持ちのようだねぇ。そしてその能力は、【錬金術】とかかな?」
私はマテウスに問いを掛けつつ、私とマテウスの間に設置型魔法を複数仕掛けた。
魔法は基本的にその名称を詠唱することで発動するのだが、無詠唱でも意識さえすれば魔法使いであれば誰でも発動出来る。
但し無詠唱の場合威力が大幅に下がったり狙いが定まらなかったりとデメリットな面が大きすぎるので普通は詠唱するのだ。
だが今私が仕掛けた魔法は設置型なので狙いを定める必要性が無く、且つ威力という概念の無い魔法なので無詠唱で使う魔法の筆頭とされている。
マテウスはロイの斬撃を剣で防ぎながら私の問い掛けに答えた。
「錬金術?・・・あぁ金属をどーのこーのして違う金属に変えるって奴か!俺がそんな頭の良さそうなこと出来ると思うか?もっと単純なものだよ。」
そう言うと彼は突然自分自身の下半身を剣で切り裂き、上半身と下半身を二つに分けた。
シモンの一撃を片腕だけで済ませた身体のはずなのに、まるで抵抗を感じない豆腐のようにスッと斬れたのだ。
上半身と下半身は分かれながらどちらも生気が無くなったようにバタリと地面に倒れた。
私はもちろんロイとシモンも彼の奇行に呆気を取られてしまった。
二つに分かれたマテウスの身体はどちらも断面から血が流れている様子がない。ただ単に奇行に走った訳ではないようだ。
「な、何をしてんだこいつ・・・。」
マテウスの下半身がピクリとも動かなくなったのを確認したシモンは彼の下半身を離そうとしたが、その時マテウスの目がカッと開いて不適な笑みを浮かべた。
「こんなことが出来る程度のマナだよ、あんたの相方の時間止める奴の方がクラスは高いだろ。」
そう言うとシモンが掴んでいた下半身が徐々に消え、マテウスの上半身に何事もなかったかのように衣類ごとくっついた。
いや、再生されたと言った方が正しいのかもしれない…。
マナは発現された時点でとある財団に管理される。
財団の職員の中に発現したことが分かるマナ持ちと特定の人物の位置情報が分かるマナ持ちがいるんだろう。
その施設でマナの危険度に応じてクラス分けされる。
クラスは人体や世界に影響がほとんど無いクラス1から、人体や世界に多大な影響を及ぼしかねないクラス5まであるが、彼のマナは確実にクラス4以上あるはずだ。
しかし彼のマナが全く分からない、少し遠くにあった筈のロイの戦斧がマテウスの手元にあり、しかもその戦斧が剣に変わっている。
そして今見たように身体を半分にされても死なずに再生される。
ロイみたいなマナか?…いやそんなことを考えている程余裕はなかったな、束縛が無意味であることを知らされた今、説得か戦闘不能にまで追い込むしかなくなった。
マテウスは手に持った剣を振り回したり脚を回したりしている。再生した後の動き具合を確かめているのだろう。
シモンはまだ立ち上がれそうになく、ロイと私はほぼ無傷だ。もうしばらくシモンは休ませるとしてロイに指示を送ろうと決めたその時ーーーー
ドオオオオオオオオオン!!!!!
私からみて右側、雷の魔法少女とアリスが戦っている所から鈍い重低音が部屋中に響き渡った。
突然のことで驚いた私は条件反射で音のする方を見た。
恐らくアリスが放ったであろう巨大な岩が部屋の壁を思い切り破壊していた。
密閉された部屋のなかに冷たい風が大量に入り込んでくる。
私たちはフードを被っていたがその風によって全員のフードが脱げてしまった。
マテウスの真後ろにいる帽子を被った少年もその風によって帽子が飛ばされ…
私は目の前の光景に思考が止まった。
マテウスの後ろにいる少年はただの少年ではなかった。
帽子の中から見えたのは黒色と灰色と白色が混じった髪にそこから見える大きな耳、この世界でいうオオカミによく似た髪色と耳をした少年だった。
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マナのクラスはSCP財団のオブジェクト・収容クラスを参考にしています。




