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13 兄は強し

 僕は2年前くらいからの記憶しか憶えていない。

 思い出そうとすると頭が痛みだしてくるし、兄さんに聞いてもまともに答えてくれない。

 外に出るときは必ず帽子を被れと兄さんは言う。

 これに関しては最初は何故被らないといけないのか分かんなかったけど、最近は薄々だけど何となく察しがついてきた。

 僕だけにあって、他の皆にはないものを隠すため・・・。

 ここまでダラダラと僕の事を語っているけど正直そんなことはどうでもよかった。

 兄さんさえいてくれれば他は必要なかった、昔の記憶も、裕福な生活も。

 なんなら記憶の事なんてすっかり忘れていた、思い出すことを忘れていたなんてちょっとよくわからなくなってくるけど。



 そんな生活がずっと続くと思っていたけど、そんなことはなかった。

 急にビリビリする爆発は起こるしそのせいで牛は逃げ出すしなんかよく分からない大きな生き物が襲い掛かってくるし・・・。

 まぁでもそのおかげで兄さんと一緒に僕たちの家の外に成り行きで出ることができたんだけどね。



 そして更になんかよく分からない出来事が起きて、瞬きする間に知らない場所に来ているし、正直ついていけない・・・。



 イブは黒くて膝の下まである大きな服を着た女の人、イブはアリスって言っていたかな?アリスがイブの周りに高い壁を造って何も見えなくなっている。

 兄さんは僕の前に立って僕を守ってくれている。



 奥にいる3人の人間、服と一緒になっているフードを深く被っていて見え辛いけど、3人とも男の人みたいだ。

 僕から見て右から、殴られたらひとたまりもなさそうなほど体がデカい人、僕たちをここへ連れてきた髭を生やした人、兄さんより身長が低いけど見た感じ年齢は兄さんと同じくらいの若い人。

 すると右側の体がデカい人が片手に斧みたいな武器を担いで兄さんを睨みつけてきた。



「おぃおい、俺の相手はシモンみてぇなヒョロガリかよ!こんな奴絶対に俺一人で始末できるぜ。」



 その言葉に一番左の小柄の人が反応した。



「アドルフ様の話を聞いていなかったのか木偶の坊、今回は始末するんじゃない、無力化が目的だ。それに俺とあいつを一緒にするな、俺はヒョロガリじゃねぇ。」



 一番右の木偶の坊は斧みたいな武器、真ん中のアドルフは小さな棒を持っているのに対して一番左のシモンという人は今両手には何も持っていない、服の中に隠し持っているのかな・・・?



「えっマジで?殺しちゃいけないとかどうやって俺の戦斧を振り回せばいいんだよ!」



 木偶の坊はだいぶ驚いているようだ、言動から察するに見た目通り力押しするタイプらしい。

 再び木偶の坊とシモンが言い合いをしているとアドルフが仲裁し、小さな棒を兄さんの方に指した。



「相手のオーラから察するに殺しに行くくらいで構わないよ、というより本気でいかないと私たちの方が返り討ちにあうかもしれないねぇ。」



 アドルフの言葉に木偶の坊は絵に描いたような笑顔をした。



「それなら簡単な話だな、俺が先陣を切るぜ!アドルフ様とヒョロガリシモンはそこで大人しく見ときな!」



「いやだから一人じゃ無理だってアドルフ様言ってんだろ、ほんとお前は脳筋だな。」



 木偶の坊がブンブン振り回していた斧を担ぎなおし、その巨体に見合わない動きで一気に兄さんとの距離を詰めてきた。

 そして兄さんが手に何も持っていないことを確認したであろう後に、斧が兄さんにギリギリ届く距離で思い切り横払いをした。



「兄さん危ない!」



 僕は危険を察し兄さんに声を荒げたけど、兄さんはそんな叫び声は必要なかった。

 部屋中に重く鈍い音が響く。

 大きく横に空気を切り裂いた斧は僕が瞬きをしている間に兄さんの左下側の地面に突き刺さり、斧の先端部分に兄さんは足を乗せていた。



「見かけに似合わず素早い動き、そして大きな戦斧を軽々操る筋肉、俺じゃなかったら今のでやられていたかもな。」



 木偶の坊は驚きを隠せない顔をしつつもすぐに理性を取り戻し斧を持ち上げようとした。

 しかし木偶の坊程の力を持ってしてもその斧は突き刺さった地面と兄さんの足からは離れなかった。

 兄さんはそのまま斧の持ち手の部分に乗り上げ、木偶の坊の顔を左足で思い切り蹴り飛ばした。

 木偶の坊は蹴られた衝撃で斧から手を離し、大きく右へ吹っ飛んでいった。


 こんなに兄さんが強かったなんて知らなかった・・・。

 普段は仕事をよくさぼっていたりして全く役に立っていることなんてなかったのに。

 なんで今まで隠していたんだろう・・・。


 吹っ飛ばされた木偶の坊は壁に激突するかと思いきやいつの間にか移動していたシモンに片手で受け止められた。

 あの木偶の坊、2メートル、いや2,5メートルくらいはある巨体なのに片手で受け止めるなんて、シモンも相当ヤバいやつであることが伺える。



「おい木偶の坊、お前の戦斧盗られてんじゃん、あんなに粋がってたのにこんなザマとか恥ずかしくないのか。」



 シモンは木偶の坊に対して煽りと受け取れる言葉を投げかけているけど木偶の坊自身は煽られていると思っていないのか、それとも何もシモンの言葉を聞いていないのか分からないけど満面の笑みを浮かべていた。



「うおおおおお!!マジか!!今の一撃でやったと思ったんだけどなぁ!こんな感覚アドルフ様以来だ!」



 シモンはため息をついた後に木偶の坊を地面に放り投げ、兄さんを睨みつけた。

 そしてその場で右手に力を入れ、届くはずもないのに兄さんに向けて思い切り右手で殴る動作をした。

 その瞬間、シモンの右手辺りから暴風が吹き荒れ、地面の瓦礫と一緒に兄さんを襲った。

 兄さんは特にダメージを受けているわけではなさそうだったけど瓦礫が飛んできて目に当たるからか顔の前に腕をやって防御姿勢をとった。

 兄さんが防御姿勢を取り視野を狭めたのを確認して、シモンは木偶の坊よりも素早い速度で兄さんとの距離を詰め、今度は実際に兄さんに当たる距離から思い切り兄さんのお腹目掛けて殴った。

 兄さんは視界が悪くなりながらもシモンが来ていることを視認し、半身になって相手のパンチを手で受け止める。

 受け止めたと同時に強い衝撃波が僕のところにも来たけど、兄さんの真後ろにいることもあり僕は特に怪我は無かったけど、兄さんの腕は今の殴打で取れはしないまでも思い切り後ろに弾き飛ばされ、そのあとダランと下に垂れてピクリとも動かなくなった。



「痛ってぇぇぇ!!?ハァ!?何そのパワー!?反則だろふっざけんな!」



 兄さんは痛がってはいるけど恐らく右肩が外れて右腕の骨もほぼ全部粉々になっているんだと思う。

 そんな惨状でその程度の痛がり方はやっぱりちょっとおかしい。

 骨折すらしたことない僕が想像しただけで変な汗が出てくるほどだもん。



「反則なのはそっちだヒョロガリ、塵も残さないつもりで全力で殴ったのになんで腕が負傷した程度で済んでんだよ・・・。」



 殴った本人ですら困惑している、それほど自分が強いという自信があるんだろう。

 というか今目の前で戦闘をしている四人全員、常軌を逸した強さがあるのは目の前で起こった情報が物語っている。



「規格外れのパワーだが結局は二人とも力任せの一発屋ってところか?脳筋ばかりじゃなくもうちょい頭も使える奴を仲間にしたほうがいいんじゃないかアドルフさんよぉ?」



 兄さんは一番奥にいるアドルフに向かって言葉の銃口を向けた。

 アドルフはまるで友達と話しているかのように軽く笑みを浮かべる。



「いやぁ他の者達は違う依頼を頼んでいてねぇ空いていなかったんだよねぇ、そもそも君みたいな人?がいるとは思わなかったからしょうがないと思わないかい?でも安心して、この二人はちゃんと『マナ』持ちだから一発屋だけで終わらせるつもりはないんだよねぇ。」



 マナ・・・以前森の中で兄さんが少しだけマナについて話をしていた気がするけど、詳しくは話してくれなかったんだよね。

 特殊能力って言っていたっけ?どんな感じの事を言うのかやっぱりさっぱりだ。



「余裕ぶっこいてるけど右腕イカレちまってんの忘れたのか?俺様とあの木偶の坊だけでこんなザマなのによく一発屋だとかほざけるな!」



 一番兄さんと距離が近いシモンが再び殴りかかってくる、次にシモンのパンチをモロに受けたら今度こそ兄さんでも危ないかもしれない!

 特殊能力がどうこう考えている場合じゃない、僕もどうにかして兄さんを助けないと・・・!


 だけど、動かない。

 足が、どうしても動かない。

 頭の中では立ち上がって前に数歩進むだけで兄さんの傍に寄れるとわかっているのに、全く力が入らない。

 足は全く動かないのに上半身だけは異常なほどに小刻みに震えている。


 怖い


 兄さんのためなら僕が犠牲になることくらい惜しまないつもりだったけど、いざ目の前にそういった状況が立ちはだかると、怖い。

 恐怖という名の水が、脳の中にドバドバと流れ込んできて、行動も、思考も、感情も、何もかもが身動き取れなくなっている。

 そしてその水は、やがて目から溢れてきた・・・。





「そんなに泣くなって、お兄ちゃんがお前を守ってやるからそこで俺のかっこいい姿を見ていてくれよ。」





 なんで

 なんで僕の方全く向いていないのに僕を見ていたかのような言い方をするの。


 兄さんはシモンの打撃を今度はまともに受けずに受け流す。

 シモンはあの手この手で攻撃をするが、全て片手だけで受け流されてしまっていた。



「ロイ、これを渡すからそんなところで伸びてないで早くお前も加勢しろよなぁ。」



 アドルフは知らない間にどこからか兄さんの足元にある斧に似たようなものを持っており、それを木偶の坊の方に転送した。

 あの人の名前、木偶の坊かと思っていたけどロイって名前だったのか・・・僕としてはどちらでもいいけど。

 木偶の坊は目の前に現れた斧を手にし、少し手触りや振り加減を確かめた後笑顔で兄さんの所へ走ってきた。



「うおおおおおおぉぉぉ!!流石アドルフ様だ!この戦斧であいつに盗られた戦斧を盗り返して二刀流で完全勝利いくぜえええええぇぇぇ!!」



 これで完全に1vs3の形が出来上がってしまった。

 兄さんは右腕が使えない状況だっていうのに、どうするんだ・・・。








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