10 袋小路の陰から
何の前触れもなく真後ろから人の気配を感じた。
後ろは階段を上がった先、つまりは木材置き場でそこに行くにはこの階段を上るしかない。
そんな袋小路のところから人の気配が突然するのはおかしいとしか言いようがない。
俺とヴィクトリアがほぼ同時に後ろを振り向き、ワンテンポ遅れてイブとルカも後ろを振り返った。
そこには黒色の髪で堀が深い40代くらいのおじさんが二人立っていた。
俺はその二人を見たとき思考が止まった、なぜならその二人の顔が全く同じだったからだ。
双子とかそういうレベルの問題じゃない、まるでコピーでもしたかのように瓜二つなんだ。
すると片方のおじさんが言葉を放った。
「念を押して6匹もケルベロスを向かわせたというのに全滅した気配がしたから見に来たんだが、そうか転移先と時間が奇跡的に近くなって合流してしまったのか、これは誤算だったな。」
なんだ?今ケルベロスって言ったか?だめだ、頭が追い付かない、突然後ろに同じ顔のおじさん二人が現れてケルベロスがどうのこうの言ってたら誰もが混乱するだろ・・・、するとヴィクトリアが腰に納刀していた剣の柄を掴み、二人を睨みつけながら聞いた。
「貴様ら、何者だ?私たちに何の用がある。」
ヴィクトリアが質問するとおじさんたちは顔色を何一つ変えず答えた。
「これはこれは、あまり話を聞いてくれなさそうな感じだねぇ、じゃあ単刀直入に言うよ、魔法使いお二人さん、私たちの下に就きなさい。」
「・・・は?」
イブとヴィクトリアは悪態をついたが、おじさん達は話をつづけた。
「初めから話すと長くなるんで端折るんだけどね、今私たちがいるこの世界と、君たち魔法使いがいた向こうの世界を守るために、もうひとつある3つめの世界を滅ぼしたいんだよね、そのために頼りになる人手が欲しい訳。まぁ魔法使い7人をこの世界に転移させたのもこのためなんだよねぇ。」
話し方が癇にさわる上にやはり何を言っているのか分からなかった。
世界を滅ぼすだと?
そのために魔法使い7人を転移させた?
とにかくこの二人はイブとヴィクトリアが目的のようだ、俺とルカが関係ないのは少し安心したがこのおじさん達のオーラ、ただものじゃないのは確かだ、慎重に答えなければならないな。
だがヴィクトリアはその言葉に反発した。
「ふざけるな!得体の知れない奴等に世界を滅ぼすから手伝ってくれと言われて『はい分かりました』と言ってついていくやつがいると思うか。そもそも、この話をする前にケルベロスを使って攻撃を仕掛けてくる奴の話なんか聞くものか!」
ヴィクトリアの言葉にイブも便乗した。
「そうです!話を聞く限りこの世界に私たちを転移させたのも、ケルベロスを使って攻撃をしてきたのもあなた達みたいですが、頼みをする人のやることではないでしょう!私たちの世界で正式な形で話し合いの場を作っていればこんなあなた達を睨むこともなかった!」
どちらもだいぶ怒りの感情を露わにして話をしている。無理もない、勝手に転移されたり身の危険を冒したのだから。
ヴィクトリアの方は今にも刀身を見せそうなほどだ。しかしこんなところで戦闘にでもなればいくら手練れであろうと町の住人にバレる恐れがある、あまり人目についたり注目を浴びるのは俺が困るんだ。
イブとヴィクトリアを落ち着かせようとしたがその前におじさん達がそんな二人をあざ笑うかのような表情で言ってきた。
「おやおや、やはり聞く耳持たないじゃないですか。私は最初からこうなることを見越していたのですよ、あちらの世界で話さないのも、ケルベロスを送ったのも今以上に悪くならないようにするためです。ですがまぁ、想像以上に感情豊かですねぇ、もう少し感情を抑えてみてはいかがですかな?」
こいつら、確実にこの二人を煽ってきている。俺はまずいと思い冷静にさせようとイブの所に近づいた。
だが優先するべきはイブではなくヴィクトリアの方だった。
「言いたいことはそれだけか!その減らず口、しばらく喋られないようにしてやる!」
そう言うと一瞬にしておじさんとの間合いを詰め、二人の胸を剣で切り裂いた。
・・・切り裂いたと思ったがその刃はおじさんの体スレスレの所で止まっていた。
いや、止まっているのは刃だけじゃない、ヴィクトリアも、イブも周りの木も、風も、そして俺自身も、止まっていた。
首や目さえも動かすことができないから後ろにいるルカは確認できないが、恐らくルカも止まっている。
だけど唯一動いている奴等がいた。そいつらは体スレスレの所に止まった刃から一歩後ろに下がった。
そして、時がまた動き出した。
本来切り付けられたはずの剣はおじさんの体には届かず空振ってしまい、おじさん達は高笑いした。
「ハッハッハッ!どうしたんですか?剣はこちらには届いていませんよ、ほらぁもっと間合いを詰めないと駄目ですよ。」
ヴィクトリアは確かに合っていたはずの間合いがずれ、驚いたがすぐにバックステップし、距離をとった。
「そんな、まさか・・・。」
どうやら時間が止まっていたのを知っているのはあの二人と俺だけのようだ、ヴィクトリアが驚いていることを察するに魔法の類でもなさそうだしこれは確実にマナのようだ。
「ヴィクトリア気をつけてくれ、相手は恐らくマナっていう特別な能力を持った奴らだ、見た感じ自身の動きを半端なく上げる能力か、自分以外の時間を止める能力とかだと思う。」
ヴィクトリアは少し硬直した後、理解をしたのか俺を見て小さく頷いた。
その話を聞いていたおじさんは少し驚いた顔をして拍手した。
「おぉーこれは驚きました、魔法使いの他に見知らぬお二人さんがいると思っていましたがまさかマナを知っているとは・・・。もしかしてあなたもマナ持ちですか?いいですねぇよろしければあなたも一緒に3つ目の世界を滅ぼしましょう?」
今まで眼中になかったのにマナ持ちと分かった途端にその態度、現金な奴め。
近くにルカがいるからマナについては使いたくなければ出来れば話したくもないのだけれど、身体強化能力、時間停止能力、どちらにしてもこの上厄介で手強い相手だしもう一人も多分マナ持ちだろう、何をしてくるか分からない以上俺も戦わざるを経ないだろうな。
俺はヴィクトリアの隣に並んだ。
「どうやら相手は世界を滅ぼしたい願望を持つ上に無駄に実力もある面倒なおじさんなようだ、こんな人たちを野放しにしておくわけにはいかないだろうし、手を貸すよ。」
ヴィクトリアは固かった表情が少し緩んだ。
「ありがとう、君がいると心強いよ。」
俺が少し頷くと俺の隣にイブも並んだ。
「師匠とマテウスが戦うっていうのに私だけ見ているわけにはいきません!」
これでルカを庇いつつだが3対2の状況を作り出すことができた、目立ってしまうが倒した後すぐ町から離れればどうにかなるだろう。
するとおじさん二人は少し困ったような顔をした。
「うーむマナ持ちがいるとは聞いていなかったしどうしようかねぇ、いっそのこと分断してしまおうかなぁ?」
そう言うと片方のおじさんはローブの内側から小さなステッキを取り出し何かを唱えた。
「"強制座標指定"」
おじさんがステッキを俺たちの足元に向けてそう言い放つと俺たちの足元に二つの複雑な模様の円が浮き出てきた。一つの模様の中に俺とルカとイブが入っており、もう一つの中にヴィクトリアだけが入っていた。
その模様が出るか出ないかのタイミングでヴィクトリアは焦りを見せながら大声で俺たちに言った。
「この詠唱はまずい!皆今すぐその魔方陣から離れろ!」
だがその言葉を待っていたかのようにおじさん達はヴィクトリアの話を遮った。
「もう遅いねぇ。」
ヴィクトリアのいう言葉に反応すら出来ない早さでその魔方陣とやらは大きく光を放ち俺たちの視界を奪った。
白い光に視界が染まる前に最後に見えたのはルカとイブだけだった。




