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竜の翼ははためかない8 〜竜骨よりも堅いモノ〜  作者: 藤原水希
第三章 フォルクローレかく語りき
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チャプター16

〜エルリッヒの自宅・二階〜



「−−というわけで、その時の失敗が元で大規模な爆発が起こって、当時のアカデミーの屋根が吹き飛んだんだってさ。そんなこんなが積み重なって、基礎を大事にしようって話になったってわけ」

「なんか、すごいね。笑っちゃいけないんだろうけど、笑えるっていうか、なんていうか。だけどさ、今の話を踏まえて考えると、フォルちゃんは最終学年になるまで落ちこぼれだったってことでしょ? ストレートに進級できてたの?」

 フォルクローレによる「アカデミーとんでも失敗談」の紹介が終わる。それはどれを取っても常識を疑うようなもので、失敗の理由が些細なくせに、もたらされた結果はなかなかに壮絶だった。

 起こった現象を考えると、下手な爆弾よりよほど効率的にすごいことが起こっているような気がするのだが、それをまた体系立てて新たなレシピにつなげるような動きはあるのだろうか。

 そして、こんなアカデミーで落ちこぼれだったというのであれば、フォルクローレはいっそすごい人物だったのではなかろうか。そんな気さえしてくる。

「あ、あたしの成績のことは言わないで。今思い返しても、なんでストレートで進級できたのか謎なんだから」

「それって、成績列島だったってことだよね。ちなみに、どんな試験があったの?」

 錬金術アカデミーの試験がどんなものなのか、とても興味深い。成績の話は避けて欲しそうな気配からすると、よほど大変な内容なのだろうか。

「進級試験も定期試験も、だいたいは同じだったよ。一つ目は座学。レシピや機材、参考書に調合手順、そのあたりの問題が出るんだ。基礎理論がわかってれば楽勝だよ。……うん、今だから言えるっていうか、今ようやく言えることなんだけど」

「そ、そっか。じゃあ、他の試験は?」

 しどろもどろになりながら釈明するあたり、当時は難しすぎて詰まっていたのだろう。進級できている以上白紙回答ということはなかっただろうが、正答率が低かったことだけは伺わせてくれる。

「うん、二つ目は、アイテムの適正利用に関する試験。幾つかのアイテムが用意されて、その中から自由に選んで目標の樽を破壊するんだ。樽の中に入れられたアイテムを傷つけずに樽を木っ端微塵にしてしなきゃならない。ま、常日頃から攻撃アイテムを使ってるかどうかの試験だね。なんだかんだうちらは採取や素材のためにあちこち行って危険な魔物とも戦うから」

「あー、なるほど。でもさ、それって難しくない?」

 イメージしたのはアイテムを投げつけて樽を破壊するイメージ。もし、そこに何らかの制約があったら、途端に難易度は上がるだろう。

 中にアイテムが入っているという話は、まさしくそれだ。ただ壊せばいいというだけなら、いくらでもやりようがある。もっとも、綺麗に木っ端微塵というのが毎回共通のテーマだというのであれば、中途半端な威力でもダメなのかもしれないが。

「難しいよ〜? 当たり前だけど、加減しすぎて規定回数アイテムを投げても中破止まりの子は多かったし、逆にそれを経験したことがあるんだろうね。遠慮しすぎないようにしたつもりが中のアイテムまで黒焦げにしちゃうっていうケースもあったし」

「あぁ〜。想像しやすい。その間を狙えばいいんだよね。簡単に言うことじゃないけど。ちなみに、どこまで破壊すればいいの? それ」

 綺麗に木っ端微塵という言葉は、思いの外抽象的だ。

「文字通りだよ。うまーくやると、木片一つ、金属片一つ残らず本当に爆散するんだ。それを目指すってわけ。今にして思えば、あの樽も特注品だったんだろうな〜。絶対錬金術でできてたよあれは」

 樽は木の板とそれを縛る金属のリングが主に使われている。爆破したところで破片のひとつも残ろうものだが、そうではないというのだから、やはり何かが違うしなんだかすごい。

 感心するばかりで、興味は増すばかりだった。

「他には、どんな試験が?」

「最後は、アイテムの提出。毎回テーマだけ与えられて、そのテーマの中から一つを選んで、それに則ったアイテムを作って提出するっていう。ちょうど、前に王様に献上したのと似たような感じだよ。テーマに沿ってることを説明できれば、何を作ってもよし。でも、当然だけど品質と備わってるアイテムの効果が重視されるから、楽をしようとしても、楽のしようがないシステムになってるってわけ」

 再びあれこれと想像してみる。テーマに則ったアイテム作りはいい。品質を追求するのもわかる。しかし、アイテムの効果は一定ではないのか。品質によって左右されるとしても、備わっている効果は同じではないのだろうか。

 錬金術の知識が浅いエルリッヒには、理解できないポイントだった。

「ねえ、アイテムの効果って、どういうことなの? 同じものを作れば同じなんじゃないの?」

「ふっふっふ、エルリッヒくん、良い質問だね。ざーっくりと解説してしんぜよう。アイテムっていうのは、幾つかの素材からできてるでしょ? 中には、使うアイテムが決まってなくて、カテゴリーだけ決まってる場合があったり、材料にするアイテム自体も作らなきゃならない場合があったりするんだよ。で、そうなると、そのカテゴリーに何を使うか、もしくは何でできてるアイテムを使うか、なんてことで結構変わってくることがあるんだよね」

 それはとてもイメージしやすかった。料理も全く同じだからだ。シンプルなことこの上ない玉子焼きですら、焼くときにフライパンに引く油の種類を変えればそれだけで風味が変わってくる。

 効果が違うというのは、そのようなことの積み重ねで成立するものなのだろう。そう結論づけようとした。

「フォルちゃんの説明、料理に置き換えると理解しやすいよ。うん、面白い」

「ふっふっふ、まだまだ甘いぞよ? アイテムの効果ってのはまだあって、例えば品質。ある材料だけやたら高品質な素材を使ったりすると、調合先アイテムも均されたような品質になると思いきや、その素材が全部引っ張って品質を上げたり、突然変異することがあるんだよ」

 ここで言っているのはアイテムそのものの突然変異だろうか、はたまたアイテムの効果の突然だろうか。疑問は尽きないが、まだ話の途中のようなので、まずは思う様語らせてみることにした。

「例えば、とある回復アイテムが、ちょっとしたキズを直すくらいの回復力だったとするでしょ? でも、そこに使われてる薬草が、とびっきり新鮮なものだったとすると、どういうわけだか出来上がったアイテムは大怪我も治せる万能の薬になっちゃう、みたいなことがあるんだよ」

「ほほー、それは不思議だ。料理にはない概念かも。でも、それだと、結局の所品質を追求すればいいってことにならない?」

 もしかしたら、フォルクローレの説明が不十分なだけかもしれない。もしかしたら、「そうだよ」と答えられて終わりかもしれない。が、こちらも気になったら質問してしまうのが性分だった。

「甘〜い。貴重なお砂糖より甘いよそれは。単なる品質だけを追求してもダメで、ある程度の品質帯にないと突然変異しなかったり、純粋な品質じゃなくて、産地によって効果が変わることも多いんだな〜。そこに、カテゴリー素材の場合に何を入れるか、それはどこで採れたどんな品質のものなのか、てな具合にあれこれ組み合わせて出来上がるから、結構品質も効果もみんなバラバラなんだよ」

「じゃ、それがその錬金術士の個性ってことなんだね、面白いよ!」

 こうして、フォルクローレによる錬金術の紹介は続くのだった。




〜つづく〜

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