なろう読者は古文を読めるのか
昔男ありけり。
異世界に召され、あやしの力をば得たり。
人知れぬあやしき力を見知り、余のわざをもなしけり。
騎士団長にもおくれずて、弓矢の道にてゆりたるに、魔王をば討たむとぞゆきける。
彼の国の三の宮、大宮中の宮に疎まれてぞおはしける、ともにゆけり。
ろうたくおはしたるも大き力秘めたるを見知りたり。道にて妖しのものをば退けつつ、御力いやまし、魔王の城に至りぬ。
討たむとするままに、世の半ばを与へむとぞ言ひける。
ただにては信ずることだに難きに、まことなるを見知りたり。
かれ言ふをわれうがなへばまことたるあやしの力を見知りたればなり。
魔王をば信ずる人なきに、力、あれどもかひなし。
「世の半ば、あたはば、取らむ」と言ふに
「まことや、我がことをば信ずるや」と言ひ、
「かの言信じ難きに」とのたまふに、
「世の半ばになし」とぞ言ふ。
魔王、またの半ばを得るはかたかるめり。
我のみぞ世のなかばを得たり。
さて、世はうつりたり。
半ばせる余を人、知らなければ、男、世を全て得たるが如し。
靡かぬ女なく、思はぬことぞなきに、世に飽かず、もの憂くありけり。
三の宮、魔王慰めどもかひなし。
奈良の都の月を見むとぞ恋ひたる。月なむ青き玉の二つあるようにてあるに、いにしへの、白き月をば恋いたり。
歌
天の原 ふりさけ見れば 冴え冴えと 青き月に うつりぬるかな
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昔、ある男がいた。
異世界召喚され、チート能力を手に入れた。
その能力は鑑定。相手の力がわかるというもの。それだけではなく、他にも色々派生能力をもつ。
騎士団長との一騎打ちに勝利し、国で認められた彼はそのまま魔王討伐のために旅立った。
厄介払いのように一緒にされた第三王女と共に。だが、彼女は彼の鑑定によれば凄まじい潜在能力を持っていた。
道中の魔物を倒して彼女をレベルアップさせた彼は、驚くべき速さで魔王城に到着する。
追い詰められた魔王は世界の半分をやろうと言った。
普通の勇者なら断って当然。
だが、彼は鑑定により魔王の能力が見えていた。莫大な魔力。そして、言霊具現化という能力。詳しく見てみると、相手が納得しさえすればその能力は全ての制約を越えて世界に作用するということだった。
猜疑心という魔王のスキル。
それにより、魔王の言葉が信用されたことはなく、今まで誰も同意したことはなかった
だが、鑑定というチートはそれを容易く成し得た。
「わかった。」
男は頷く。
「本当か、我の言葉を信じるのか?」
「そうですよ。勇者さん。胡散臭いですよ。」
「信じる。世界の半分が自由にできるのは大きいからな。」
ついでに言うと、魔王がもう半分を手に入れることはできないようだった。
あくまで相手にのみ作用するらしい。
「言霊具現。」
そうして、世界は変わった。
北半球は、全て彼の思いのままだ。魔王も、彼を召喚した国も、第三王女をいじめていた、第一第二王女も。
魔法は全てを凌駕する。
南半球の存在を知るものはなく。それでも言霊具現化は正しく作用した。
今、彼は世界の全てを手に入れた。
イチャイチャもハーレムもし放題だし、なんなら復讐だって思いのままだ。
だが、彼は満たされなかった。
第三王女も魔王(女)も慰めたが、どうしようもなかった。
彼の心は遠く平城京の月を欲していたのだ。今の青色の宝石のような双子月などではなく、白く美しいうさぎの住処を。
天の原 ふりさけ見れば 冴え冴えと 青き月に うつりぬるかな
翻訳してくださった大学の先輩に感謝します。私も文系に行けばよかったかなという心地に。