始まる前の物語(魔法世界編)
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むかしむかしある村に誰も見たこともないような魔法を操る魔法使いがいました。人々は彼を賢者様と呼び、困ったことがあると彼を頼りました。
ある日賢者様は言いました。「私も歳をとった。私が死んだあと、頼れる人間を造っておいた。これからは彼を頼りなさい」
彼はパラケルと名付けられ、皆に慕われるようになっていきましたが急に皆の前にあまり姿を現さなくなりました。
賢者様の姿も見当たりません。
それから幾年かの月日が流れたある夜、パラケルは村人を集め言いました。「私はこの世界の王となる」
次の日の朝、その村に人の姿はありませんでした。
これは私の村に伝わる古い言い伝え。誰もいなくなった村にご先祖様達が移民して来たらしい。少なくとも数百年前の話だ。
偶然だが、この大陸を納める王様の名もパラケル様と言うらしい。こんな田舎の村とは縁遠い王都にいらっしゃる。
「王様に興味はないけど、こんな村早く出ていきたいよ…」
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この世界では生まれた時から皆、既に魔法の心得が本能的に備わっている。
ハイハイをしだす頃には無意識に炎を操る者や物を凍らせる者など、それぞれ得意不得意はあるがなにかしらは出来るものである。
成長にあわせ魔法の実技訓練を始める。本能で操るものだったので知識などは必要なかった。
私の父と母、兄もその例に漏れず、人並みに魔法を使いこなしていた。なのになぜ私だけ…。
マリーには悩みがあった。
日に日に大きくなる胸の膨らみよりも深刻な悩みだ。
子供の頃から何一つ満足に魔法を操れなかったのだ。この魔法世界においてそれは致命的だった。
魔法を使おうとして、なにも起きないわけではない。炎を出そうと右手を突き出すと手からそよ風程度の風が吹いた。水を出そうとしても同じだった。
「そよ風マリー」なんて子供の頃は皆にバカにされた。
つい先日18歳の誕生日を迎えた今でも、影ではきっとバカにされてる。
そんなことを考えながら今日も訓練場に向かっていた。
訓練場に続く道の途中、人だかりが出来ていることに気がついた。何事かと少し近づいてみたら誰かが叫んでいた「もっと炎を大きくするんだ!人を一人でも多く集めろ!」
その言葉を聞き、足が2歩後ろに下がった。(私が行ったところで)という思いが働いたのだろう。
周りを見渡すと道から外れた場所で私と同じように後退りしている男がいることに気づいた。
風で揺れるボサボサ頭と細身の体が、頼りなさを感じさせた。頼りなさという点ではなにか自分と重なるものがある。見たことのない服装だが土や草でだいぶ汚れている。
そんなことを考えていたら男がこちらの気配に気付き振り向いた。男と目が合う。
その目はどこか優しく、どこか悲しく、そしてどこか懐かしい気がした。