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出会い

目が覚めると知らない天井が見える。起き上がろうとすると全身に激痛が走る。


「あ、ぐぅ……! はぁ、はぁ……」


荒い息を吐きながら、首を動かし周囲を見る。闘真は自分がベッドの上で横になって寝ていた事に気付いた。部屋の中は荒らされた様子はなく、きれいに片付いている。誰かの部屋なんだろう。


どうやら今いるのはマンションの一室だったみたいだが……爆発が起きた後どうなったんだ? 何故こんな所に? それにしても、あの爆発を受けて無事といっていいのかわからないが生きている。皮肉にも狼たちがクッションとなって衝撃を吸収したおかげで助かったのだろう。


爆発の影響を最も受けているだろう左半身を見ると、包帯が巻かれている。……これは、俺がやったものじゃない。誰かが治療をしたのだ。でも、一体誰が? 


闘真が疑問に思っていると、部屋の扉が開き、同じ高校のブレザーの制服を着た少女が入ってくる。腰まで届くストレートの黒髪、整った顔立ちで、肌は白く澄んでいる美少女だ。

制服の上からではわかりにくいが、スタイルは結構良さそうだ。


「あっ……やっと、起きた。酷い怪我だったから心配したよ」


目を覚ました闘真を見て安心したように少女が言う。本当に闘真の身を案じていたようだ。治療をしてくれたし、敵ではないようだ。というか見覚えがある。同じ高校なら見覚えがあっても当然と思うかもしれないが、同じクラスの人の顔すらほとんど覚えていない俺には当たり前じゃない。


思い出そうと顎に手を当て唸っていると思い出した。確か一年の時同じクラスだった――


「――東堂か?」

「東郷よ」

「……一文字違いならほぼ正解だな」

「……」


東郷は呆れたように溜息を吐いた。しょうがないじゃないか。名前をだいたい覚えていただけでもすごいと自分を褒めてやりたい。

聞きたいことはたくさんあるが、まずは意識のなかった時に何があったか。


「俺が意識を失くしてから……大きな爆発の後、何があった?」

「それは……」


東郷はこのマンションに住んでいて、大爆発が起きた後、しばらく経ってから、ベランダから爆発のあった部屋まで様子を見に来たそうだ。そうしたら、酷い怪我や火傷をした闘真が部屋の中に倒れているのを発見して、彼女の部屋まで引きずってきて治療をしたというわけだ。気を失ってから一時間も経っている。


そんなに寝ていたことに驚きだが、そこから導き出される予想は、大狼は俺が死んだと思っているのか、それとも配下の狼たちが全滅して中まで攻めて来られないか。

どっちにしろ、それだけ時間が経ったのに攻めてこないという事は、しばらくは安全だ。


闘真は安心して一息つくと、ベッドに体を深く沈める。腰に触れる手に剣の感触が無くて、慌てて跳びあがり起きるが、すぐに痛みに体を丸くする。


「がっ……! ッ――――」

「怪我人なんだから、安静にしていないと駄目」

「それより剣はどこだ!?」

「っ、桐島君が持っていた剣なら、そこに置いてあるよ」


問い詰める闘真の気迫に東郷は驚くが、すぐにベッドの傍を指差す。指差す方向を辿って見てみると、床に三本の剣が置かれている。安堵の息を吐くが、しかし、長剣だけは鞘だけだ。戦闘中に落として行方不明になったままだ。


探しに行かないと。それに、狼のドロップアイテムも回収しないといけない。

痛む体に鞭を打って立ち上がるが、ふらついて壁に手をつく。


「立ち上がったら駄目、大人しくしといて」


東郷が歩を進めようとする闘真の肩に手を置き止める。その手を払って、剣を拾おうとする。


「だ・か・ら――、大人しく寝てなさい!」


だが、東郷の怒った声と共に、強引に体を引っ張られてベッドの上に戻される。


「――っ。な、何する……」

「黙る! ベッドから出るの禁止」


抗議しようとした闘真を一喝して黙らせる。


「いや、でも……」

「どんな理由があろうと駄目! 怪我人だって自覚を持って大人しくすること。わかった?」

「………………」


顔を逸らして沈黙する闘真。しかし、それを許さず東郷は闘真の頬を両手で掴むと、強引に顔を合わせる。


「わ・かっ・た?」


東郷の有無を言わせない迫力に闘真は観念して渋々頷く。それを見て東郷は手を放す。


「……それで、そんな体でどこに行こうとしていたの?」

「通路に落とした物を取りに行こうと……」

「それなら、言ってくれれば私が取ってくるのに」


何てことないように東郷が言うのに驚く。さっきまで狼と激しく戦い、爆発が何度も起きた所に向かうなど普通の精神ではできないだろう。ちゃんと現状を理解しているのか?


「外は危険だって、わかっているのか?」

「馬鹿にしないで。詳しい事はわからないけど、外に怪物がいて危険なのくらい分かってる。さっき確認したけどマンション付近に怪物はいなかったから大丈夫」


既に外に出ていたのか。少し呆れるが、無謀か勇気があるのかわからないが、行動しない奴よりはいいか。


「何を落としたの? 取ってくるから言ってみて」


東郷に行かせていいものか悩む。少なくとも狼はいない。他の魔物がいる可能性は低い。

……なら、止める理由はないか。


「……剣を一本、それと、白いピンポン玉みたいなのをあるだけ持って来てくれ。四、五階に落ちていると思う」

「わかった。取ってくるから私がいない間にベッドからでないように」


東郷が闘真に釘を刺すと部屋から出ていく。東郷の後ろ姿を見送り、特にできることもないので、早く怪我を治すために大人しく寝ることにした。

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