住宅街
「休憩はもういいだろう。……さて、世界がどんな風になっているか見に行かないとな」
完全には回復していないが、戦えるくらいには回復したので、ベルトに剣を差して歩き出す。本当はもう少し休んだ方が良いのだが、変わった世界を早く見たくて、いてもたってもいられなかったのだ。それに、少し不安な事もある。もしも、このゲームみたいな事がここだけで、町では人々が普通に暮らしていたらと、そんなことないだろうが思ってしまうのだ。
人が住んでいる所まで五分かかるので、今のうちに今後の方針を考えないと。まずは、現状の町の様子を確かめ、安全な拠点を探す。これがゲームなら町の中は安全でゆっくり休めるが、残念ながら現実に安全地帯なんてない。絶対に安全な所なんてないから、学校や大きなデパートなら防火扉があるし、敵の侵入をある程度防げるだろう。
敵についての情報も集めないといけない。敵の呼称だが魔物にしよう。モンスターでもよかったが、短いから魔物にした。さっきの人に化ける魔物以外にもいるだろうから、どんな魔物がいるか確かめないと。後は、魔物を倒してドロップアイテムを集めて強くなる。
他にはソロでずっとやっていくのはキツイから、仲間をつくろう。友達と呼べる人は数少ないけどいるが、すぐに合流する必要もないだろう。死にそうにない奴だから、どうせ生きているから後回しでいいや。
勝てないような強い魔物もいるだろうし、一人でできることには限界がある。でも、仲間をつくるのは簡単ではない。誰でもいいのなら簡単だが、俺が欲しいのは、役に立つ裏切らない仲間だ。足手纏いの役立たずを仲間にするくらいなら一人の方がマシだ。
裏切らない仲間をつくるのは難しそうだが、方法として一つ考えているものがある。それは相手に恩を売ることだ。それもただの恩ではない、命を救ってやる恩だ。命の恩人を裏切ることはそうそうないだろう。
今後の方針をある程度決めたところで、住宅街が見えた。霧が薄れて、静まり返った住宅街の様子が見えるようになった。家々の扉や窓は破られ、車はひっくり返り、道路上に血をぶち撒けた人の死体が転がっている。見えないところでもたくさんの人が死んでいるのだろう、濃密な血の臭いを漂わせている。
日常が崩れ去った凄惨な光景に、闘真は安堵の息を吐いた。
「だいたい想像通りだな。…………ん?」
改めて物音一つしない住宅街を見回して、ある事実に気付く。ここが魔物に襲われたのは、ついさっきの事ではなく、どの程度かはわからないがそれなりの時間が経過している。
つまり……
「完全に出遅れた――――!? こういうのはスタートダッシュが肝心なのに! くそっ、何時間遅れた!? まだ、挽回は可能だよな!? つーか、いつから始まってんだこれ!? 昨日は何もなかったし、少なくとも今日からだよな。いけるか? いや、いくんだ! 今から遅れを取り戻す!」
頭を抱えて叫び出し、決意を新たに探索を開始する。
まずは、近くに落ちている死体に近づき観察する。
スーツを着た男は上半身と下半身に分かれ、自らのつくった血だまりに沈んでいる。その顔は恐怖に引きつり、男がどんな最後だったか語っている。
「切断面は、あまりきれいではない、剣で斬られたのかな? 切れ味は良くないみたいだ」
どのようにして殺されたかを確認すると、立ち上がり扉のない家へ歩いて行く。扉は粉々に砕け散り、扉のあったところが焼き焦げている。どうやら、外から爆破されたみたいだ。
「うむ。一撃で扉を破壊する火力か、……これじゃあ、大抵の家は駄目だな」
破壊された玄関を越え家の中に入っていく。リビングを覗くが特に荒らされた様子はない。一階の他の部屋も異常はない。二階へ行く階段が汚れているので、汚れた跡を追うように階段を上って二階へ行く。破壊された扉へと続く跡を追い部屋の中には入る。
寝室なのだろう、ベッドの上に頭を潰された死体がある。抵抗した様子はなく、寝たまま殺されたのだろう。恐怖に震えて死ぬよりは自分が死んだ事に気付かないまま終わった方がいいのかもしれない。扉をぶち破られて音がしたと思うが、それでも起きないとかどんだけだよ。
死んだ人に呆れながら、他の部屋を調べようと踵を返そうとする闘真の目に、床に落ちている時計がうつる。気になって拾い上げると、壊れているのか針が止まっている。針が指し示す時間は、六時二十四分。冬真はスマホを取り出すと現在時刻を確認する。七時五十分と画面に出ている。ここが襲われたのは、一時間半前ぐらいか。
「一時間半なら、まだ大丈夫か? ……ここら辺に住んでいたら、乗り遅れることはなかったのに」
言ってもしょうがないとわかっていても言わずにはいられない。一時間半前はまだ寝ている時間だ。周りに田んぼと畑ばかりで家があまりない所に住んでいてから襲われなかったのか?
スマホの画面を見ていて気付いたが、圏外になっている。こんな状況で使えるとはそもそも思っていなくて、今まで確認していなかった。
これ以上ここに用はないので外に出る。