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誰が為に

「…………、…………」

蒼く澄み渡る空がどこまでも続いている。体の感覚はなく、指一本さえ動かせない。焦げた臭いが鼻につき、呼吸をするのも苦しい。

ドラゴンのブレスをまともに受けて、指先さえ動かせない状態で、体がどうなっているか想像するだけで恐ろしいが、生きているだけでも運が良かった。


幸いな事と言っていいかはわからないが痛みを全く感じない。もし、痛覚が正常に働いていれば耐え難い激痛に襲われ、集中することができず回復魔法を使えなかっただろう。

回復魔法を使い、体を癒していく。さっきよりも時間が掛かっている。それだけ、重傷なのだろう。だんだんと体の感覚が戻ってくる。指先が動くのを確認し、拳を握って開いてを繰り返し、地面に手をついて起き上がる。自分の体を見下ろす、跡も残らずきれいに治っている。しかし、服はぼろきれのようになり、服としての役割をほとんど果たしていない。マントや盾、剣は無事だ。


どこかの庭先に転がっていたみたいだ。周囲を見渡して、右側を見たら、道が出来ていた。一直線に何もかもを消滅させ、家三軒ぐらい向こうまで続いている。

本当によく、これを喰らって生きていたものだ。そういえば、ドラゴンはどこにいったんだ。まさか、倒したと思ってどっか行ってくれたり……しないよな。

闘真の上を大きな影が通り過ぎる。上空を見ると、やはりドラゴンがいる。


身構える闘真をよそに旋回していたドラゴンは向きを変えて飛んでいく。

……あれ? もしかして本当に見逃した。

助かったことに安堵して、ドラゴンの向かう先を見て驚愕する。

ドラゴンが向かっている先にあるのは東郷がいるマンションだ。

だが、何故? と疑問に思うがすぐに答えが見つかる。通路に出ている東郷の姿が小さく見える。


「な――ッ!? 何で出てきているんだよ!?」


魔物がいる外は危険だと言ったのに、なんで部屋から出ているんだよ。もしかして、俺の心配をして様子を見に外に出てきたのか? 

ステータスを強化していない東郷では、ドラゴンに襲われれば逃げることもできず死ぬ。

ドラゴンの意識を東郷から逸らさないと。魔法を放ちドラゴンの注意を引こうと右手を上げようとして、途中で止まる。


俺がドラゴンの注意を引けば、東郷は助かる。だがそれは、俺があの圧倒的な力を持つドラゴンと戦う事になる。さっきみたいな幸運はないだろう。次は死ぬ。

実感すると死への恐怖で腕が上がらない。


別に自分の命を賭けてまで、東郷を救う必要はないんじゃないか……俺は自分の命が一番大事だ。自分の命に比べたら他人の命なんて石ころ同然だ。それに、これは自業自得だ。大人しく部屋にいたら、こんなことにならなかったんだ。俺がその代償を払わせられるのは間違っている。そうだろ?


東郷は俺にとって何だ? 元クラスメイトで、治療してくれて、一応仲間だ。治療してくれた事には感謝しているが、別に放っていたとしても死ぬような怪我ではなかった。仲間と言っても、まだなったばかりだ。仲間なら、また探せばいい。別に東郷に拘る理由はないはずだ。東郷を助けなくてもいいだろ……


上がりかけていた手が下りる。不意に胸がチクリと痛む。ほんの微かな痛みになのに何故か無視できない。これは東郷を見殺しにする罪悪感だろうか……気にするな。仕方ない事なんだ。人生どうしようもない事なんてたくさんある。明日になればこの痛みを忘れて過ごせるはずだ。だから、ドラゴンに気付かれる前にこの場を離れよう――後ろを向こうとするが体は動かず、足は鉛にでもなったように重く一歩も動けない。


自分より圧倒的強者に立ち向けるのは物語の中の主人公だけだ。どんな強敵だろうと、挫けぬ意思を貫き通しボロボロになってでも最後には勝利を掴む主人公ではない。俺にはそんなことできない、したくない。

そこそこ強い敵に勝てればいい。命懸けで勝てる可能性がほぼない戦いなんて馬鹿で、無謀な奴がやることだ。


誰が険しく危険に満ちているとわかっていてその道を進むっていうんだ。誰だってなだらかで安全な道を選ぶだろう。楽な方を選ぶのは当然の事だ。今ここで逃げたとして誰も俺を責めることなどできないだろう。責める奴がいれば、じゃあお前が代わりにやってみせろと言ってやる。どうせできやしない。


胸の内がモヤモヤして、どうにも割り切れない。なんで俺はこんなに悩んでいるんだ……東郷を見殺しにしたくないのか? それとも、どうしようもない現実から逃げるのが嫌なのか? ……どっちでもあるんだろう。


散々言い訳を並べ立てても動けないのは、そういうことなんだろう。

戦うか、逃げるか、どちらが正しい選択かはわからない。

どっちか決めきれないのなら、どんなリスクも無視して、最後は自分が何をしたいのか、どうなりたいのかを、自分の心に従って決めればいい。


俺は東郷を助けたい。ドラゴンと戦って勝利したい。だから――


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