空から来た脅威
ステータスに上がった分を、()内に書いときました。
火球を三つお手玉している時に鶏頭の群れを発見した。
「獲物として旨みは少ないが、ちょうどいいから魔法の練習台になってもらうか」
鶏頭の群れの中心に向け、火球三発は放物線を描いて着弾し爆発する。それだけで鶏頭の群れは壊滅し、まだ生き残っている鶏頭を斬って終わらせる。
……あれぇ? おかしいな。確率的にドロップするはずなのに、一個もドロップしない? 十体はいたはずだけど。
何もドロップしないんじゃ倒しても意味ないんだよ! 経験値入らないんだから!
ふぅ……まあいい、次探すか。雑魚の武器じゃ大して役に立たないし、<中級>の武器を狙おう。地味に歩いて探すのも面倒になったので、高い所から探すか。電柱を突き出している棒を足掛かりにして天辺まで上る。電気が通ってないので感電の危険はない。
開けた視界で探すが中途半端な高さで大体家の屋根しか見えない。でも、地上を歩いて探すよりはマシだろう。見渡すも見つかる魔物は全部弱そうなものばかりで、なかなか目当ての魔物が見つからない。
これは地道に探すしかないかな。諦めて電柱から飛び降りようとした時、影が差す。空を見上げると、逆光で黒く染まる大きな影が迫ってくるのが見え、慌てて飛び降りる。髪を掠めるようにして、何かが闘真がいた電柱の先端が砕く。
道路に着地すると同時に振り仰ぐと、家を跡形もなく押し潰した二対四枚の翼をもつ家よりも大きい巨躯の魔物がいた。全身を緑の堅固な鱗で覆われ、家を軋ませるその巨躯を二本の脚で支えて立ち、小さな手がある。長い首の先には厳つい頭があり、口には鋭い牙が並んでいる。全身を緑の堅固な鱗で覆われている。
悠然と佇むその威容の魔物を言い表す言葉は一つ――ドラゴンだ。
ドラゴンって言えば、最強クラスの魔物だ。見ただけでわかる、明らかに今までの魔物とは比べ物にならない程強い。しかも、厄介な事にあのドラゴンは翼が四枚もあり、飛行能力が高そうだ。ずっと飛んだまま一方的にブレスでも吐いて来たら、勝ち目なんてない。唯一の遠距離攻撃手段は炎熱魔法だけ、炎に耐性のありそうなドラゴンに有効打になるとも思えない。そもそも当てられるかどうかもわからない。
まだ相手にするには早い強敵だが、空を飛ぶドラゴンから逃げられるとは思えない。だからといって、家に籠ったところで、家ごと破壊されるのが落ちだ。
勝ち目は薄いが戦うしかないんだろうなあ。後ろ向きに逃げられないから戦うと思うより、覚悟を決めて勝利するために強敵に立ち向かう方がカッコいい。
だから、俺はこのドラゴンに勝利するために戦う。
そのためにも、出し惜しみをするつもりはない。取っておいた強化玉十四個全部を使う。
桐島闘真
筋力 100 (+26)
敏捷 120 (+12)
耐久 105
魔力 72
スキル
<炎熱魔法> <回復魔法>
強化も済んだし、さて、どうやって攻撃するか。
と、思っていたらドラゴンが飛び立ち、上空を旋回し始める。
これで、闘真から手出しができなくなった。攻撃のために降りて来るまで待つしかない。
旋回を続けていたドラゴンが急降下してくる。闘真を押し潰すように巨体が落ちてくるのを、逃げ出しそうになる体を抑え込み待ち構える。鋭い爪が生えた足裏が迫り、当たる前に前へと全身で飛び込む。
背後からの衝撃と風圧に押され転がり、すぐに起き上がると反転し無防備に背中を晒しているドラゴンに斬りかかる。足に斬撃を叩き込むが、堅い抵抗を感じる。鱗に阻まれて刃が通らない、それでも力の限り剣を振り下ろす。鱗を削り、微かに傷を与えることができたが、かすり傷程度でダメージなどないに等しい。
それでも、もう一撃剣を振りあげるが、翼が空気を打ち、羽ばたき生じる風圧に押され攻撃もままならず後退する。視界の隅から迫る、鞭のようにしなる尻尾を盾で受けることになる。凄まじい衝撃に紙くずのように吹き飛ぶ。塀を粉砕し窓を割って、机や椅子等を巻き込んで壁にぶつかってやっと止まる。
「ぐっ、あ……ッ」
意識に霞がかかったようになり全身に鈍い痛みを感じる。動きの鈍い体を動かし起き上がろうとするがうまくいかない。不思議に思い自分の体を見ると、盾をつけた左腕が力なく垂れ下がっている。
ああ、さっきの尻尾の一撃で腕が折れたのか。冷静に事実を確認していると、思い出したように激痛が走る。
「…………つぅ!」
痛みを堪えて、精神を集中する。幻想の心臓を意識し、回復魔法を使う。全身が淡い光に包まれ、折れた腕も治り動くようになった。手を巻き込んだ机につき体を起こそうとしたところで、外から闘真を見るドラゴンに気付く。ドラゴンは何かを溜めるように顎を引いている――それを認識した瞬間、本能が警鐘を鳴らし逃げようとするがすでに遅く、ドラゴンの顎が開きその奥から、青白く光り輝く稲光が解き放たれる。
ドラゴンのブレスは圧倒的な威力で、直線状にある建造物全てを蹂躙し破壊し尽くし、跡には何も残らなかった。