「自己紹介とは?①」
自己紹介って楽しみの一つですよね
始まった……右端の人から一人ずつ立って、段々とこちらに近づいてくる。みんな、いい感じに名前+αで終わっていく。
このまま順調に俺のところに流れてくるのかな……いや、俺の前のノノがどういう紹介するか読めないな。
自分と友人の心配をしているうちに矢継ぎ早に自己紹介は過ぎていくと思っていた。
「初めまして、影山裕です。まぁ皆一度は名前を目にしたことがあるんじゃないかと思います。ほら、期末テストとかで?見ちゃったり?」
だ、誰!?と思わず声をあげてしまいそうになった。誰だよほんとに。
そんな有名人か?てかみんな知ってるってどういう状況……一先ず気持ちを落ち着かせて……
「高校生活残り2年はこのクラスということで、僕も全力で皆さんと楽しみたいと思います。まぁ一番は勉強だけどな、楽しんでこうぜぃ!あ、たまに口悪くなるけど、許してちゃん。以上!」
なんなんだ、この真面目と不真面目を行ったり来たりする喋り方は。
俺らは何を委ねられているんだ……!ワイワイパニックだよこれ!
「なぁノノ、誰だよ今の」
「えっ知らないんですか?やだな波多野さんはポンコツで」
「おま、いいから教えて!」
「1年の時テストの順位表で見ませんでした?全教科ずっと1位を独占してた彼の名前」
……言われて記憶の糸を辿る。数百人いる学年で50位以内の人は毎回リストアップされて出てくるが、正直自分は入ることがまずないからほぼ目を通していなかった。
でも、確かに1位を独占し続けている人がいるっていうことは噂で聞いてはいた。
それが……影山君。
「あんな喋り方で主席かぁ」
思わず口を通って本音が出てしまった、だってあれおかしくない?許してちゃんとかいう人周りにいる!?なかなかのキャラの濃さに俺はあんぐりしてしまっていた。
けど、あれくらいインパクトあったほうが皆に覚えてもらえるのも事実。
なんとなく、だから頭良いんだろうなとも思ってしまった。この次に自己紹介する人ハードル高いだろうなぁ……
「静海領です、よろしくお願いします。あ、授業中寝てても起こさないでください。怒りますんで。」
なんか別ベクトルですごい人来たな……大人しそうな顔でさらっと威圧してきた。
しかもほんとに一言で座っちゃった。
「あんな人もいるんだねぇ」
「え?波多野さん知らないんですか?」
「え?むしろノノ知り合いなの?」
ノノこそ、微妙に何でも知ってる気がする。
聞いたら大体なんでも答えてくれるし、知ってたら教えてもくれる。
引きこもりの変なやつとか思ってごめん……!
「いや、知り合いじゃないですけど、有名ですよ。絵ばっか描いてて、授業中はほぼ寝てる。いつもぼーっとしてて授業中当てられても気付いてないときあるとか」
「へぇえ……まぁさっきの自己紹介からしてもそんな感じはするなぁ」
「絡んだことはないけど、結構みんな噂してますよ。波多野さん、友達いないんですか?」
「だからね、一言多いの!」
ノノは常に一言多い。まぁ俺のことをからかい半分で言ってるのは分かるけどね。
それにしても、影山くんの後をうまいこと抜けたなぁ……二人とも、友達になれないかなぁ。
なぜか二人とは、仲良くなれそうな気がした。
「こんにちは、私、皇恵梨香と申します。個性的な方がいるクラスになれて嬉しいですわ!これから2年間、是非よろしくお願いいたします」
亜麻色の長髪をポニーテールにし、どこか気品のある彼女が自己紹介をした。
言葉遣いから育ちの良さが分かるし、制服もアイロンでしっかりと形作られている。
「すめらぎさん…だっけ?ノノ、あれが俗にいうお嬢さんってやつかな?!」
「はぁ……波多野さん世間知らずというか……え、去年学校通ってました?え??」
「な、なんだよそんな改まって。無遅刻無欠席だぞ!」
「あきれた馬鹿だな!皇って言ったらリゾート施設作ったスメラギ社の皇ですよ」
「……え!?じゃあ本当の令嬢?!」
同じ学年にそんな人がいると思わなかった。
ていうかだから皆知ったような顔してたのか……なんで俺だけ知らないの!?去年の自分は仲間外れにされていたのではないかと急に不安になってきた。
確かに家が遠いからあんまり人と遊んだりもなかったけど……引きこもりのノノが知ってて俺が知らないなんて。
「まぁそれに加えてあの美貌ですからね、有名ですよ」
「確かに美形だよなぁ……あ~恋して~~!」
急に恋愛したい欲。高校2年生なんだから色恋沙汰があってもおかしくないよね!
ていうか、それこそ青春じゃん!?新しい教室への可能性の広さに、思わず心がバランスボールよろしくなレベルで弾む。
「高望みはダメですよ波多野さん、あなたまず人間にならなきゃ」
「俺をなんだと思ってるの!?」
「まぁ、ざっくりいうとペットみたいなもんじゃないですかね。犬とか」
これが友人の言葉だろうか、とても悲しい。
今までさんざん話してて俺は会話のできる犬としか思われてなかったらしい。心が折れそう。
こそこそと話をしているうちに、遂にきた――――金髪美女。
この自己紹介中、誰もが気にかけていたことだろう。
あの女誰だ、と。実際この教室の反応を見るに、誰も彼女を知っている人はいなさそうだった。
先生も特に触れてないけど……一体誰なんだろう。
「……こんにちは!っといっても、皆さん初めましてですよね。私の名前は橘莉音、先日まで海外にいました。今日からこの高校の生徒になります。よろしくお願いします!」
おそらくみんな予想してたであろうことだけど、転校生だった。
先生が彼女が来るまで待ってたのも頷ける。にしてもかわいいなぁ……こんな美人と2年間同じ屋根の下かぁ!
「波多野さん、鼻の下伸びてますよ」
「えっうそ!?え!?」
「うそですけど」
「ばかやろう」
急にこそっと言われたからほんとに伸びてるのかとびっくりした。
しかもかわいいとか思ってただけ、尚更。
「中学1年生から親の都合で海外にいました。なので少し日本語に不慣れなところもありますが、よろしくお願いします。あと、親はまだ海外にいます。私だけ先に帰ってきました。その理由は――」
急に言いとどまる彼女、親がいないなら住む家はどうするんだ?とか思ったり……まさか家がないとかある!?ないか……いけない、邪な考えが頭に出てきてしまう。
いけない、僕と一緒に住みませんか?なんて、言えない。
頭に現れた悪魔的な考えを振り払おうとする俺に、彼女は不可解な悪魔を送り出してきた。
「この2年間で、結婚相手を探しに来たからです!」
俺らは驚きから、少しの沈黙の後にほぼ全員がこの言葉を発した。
『ええええーーーーー!?』
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