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凛として駒娘──裏見香子の大学将棋物語  作者: 稲葉孝太郎
第71章 来年度へ向けて(2017年11月15日水曜)
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453手目 選挙の結末

※ここからは、香子きょうこちゃん視点です。

 いろいろとイベントも終わりまして、あとは年末までのんびり。

 かと思いきや、ひとつ重要な案件が残っていた。

 大谷おおたにさんは、例会のあいさつで、みんなに、

「先日もお伝えしました通り、次期会長選に立候補することになりました。よろしくお願いいたします」

 と告げた。

 まあ、なんというか、驚きは特にない。

 大谷さんは、メンバーを見渡して、

「この件について、なにかご意見のあるかたは、いらっしゃいますか?」

 と尋ねた。

 青葉あおばくんが挙手した。

「選挙運動って、なにをすればいいんですか?」

「特にいたしません」

 青葉くんは、

「しなくても大丈夫なんですか?」

 と、怪訝そうだった。

 これは、仕方がないか。

 去年のごたごたを、1年生は知らないわけだ。

 大谷さんは、

「とりたてて公約があるわけでもありません。大学単位での立候補でもありません。名誉職に近いので、あとは選挙権のあるみなさんに、お任せしようと思います」

 と答えた。

 青葉くんは、

「了解しました」

 と言って、ひっこんだ。

 次に、ララさんが高々と手を挙げた。

「はいはい、意見あーり」

「どうぞ」

「ひよこが会長になっても、ブッキョーを強制しちゃだめだよ。シンキョーの自由」

 どういう意見。

 大谷さんは、

「イベントは従来通りですので、ご安心ください」

 と返した。

 今度は、三宅みやけ先輩が挙手した。

「けっきょく、だれが他に立候補しそうなんだ?」

「噂では、太宰だざいさんが確実かと思われます」

「ってことは、無投票で当選、はないわけか」

「おそらく」

 三宅先輩は、もうひとつ質問なんだが、と言って、

「大谷が当選した場合、太宰を役員に入れるのか?」

 と訊いた。

「現段階では、なんとも申し上げられません」

「前回は、落選したふたりを、そのまま役員に入れた。が、あれはノリでそうなったところもある。俺の責任でもあるが、今回も同じことをすると、周囲に慣例と誤解させる可能性もあるし、少し考えたほうがいいと思う」

 たしかに。

 と、これを聞いた風切かざぎり先輩は、ひとこと。

「そこまで心配しなくても、いいと思うぜ。会長職は、思ったより楽だった」

 それは周囲にサポートしてもらったからでしょッ!

 歴史改竄禁止ッ!


  ○

   。

    .


 後日、結果は、意外なかたちで伝わった。

 部室で休憩していると、星野ほしのくんから大谷さんに、電話があったのだ。

《というわけで、大谷さん以外に立候補はなかったよ》

 星野くんは、電電理科でんでんりか大学から、幹事会の内容を報告していた。

 昨日が締切で、他にだれも応募しなかったらしい。

《一応、信任投票はあるんだけど、過半数だし、もう決まりみたいなものだから、次の役員の選出に取り掛かって欲しい、って日高ひだかくんが言ってた》

 なんというか、かんというか。

 日高くん、なにか仕組んでたんじゃないでしょうね。

 大谷さんに声掛けをしたのも、日高くんだったような。

 電話を終えた大谷さんは、しばらく沈黙した。

 私は、

「おめでとう……で、いいのかしら」

 と言った。

「ありがとうございます……太宰さんは、なぜ立候補なさらなかったのでしょうか?」

 わからない。

 そう答えようとした矢先、ソファーでくつろいでいた穂積ほづみさんは、

「ひよこに負けるって、気付いたんじゃない?」

 と、脇から答えた。

 大谷さんは、

「拙僧には大学での役員経験がなく、関東の将棋界とも、懇意ではありませんでした。念入りに根回しすれば、結果はわからなかったと思います」

 と返した。

 穂積さんは、肩をすくめて、

「そういうのって、そこまで効かないんじゃない? どっちを上司にしたいかって言われたら、断然ひよこ。太宰は、寝技担当の同期でいたら、頼りになるかなあ、って感じ」

 と、なんとも的確な人物評をした。

 そうなのよね、太宰くん、悪いひとじゃないんだけど。

 ポジションとしては、横やりを突いてくれそうなキャラ、という印象だった。

 大谷さんは、ひと息ついた。

「いずれにせよ、役員の決定で、懸念事項がひとつなくなりました」

 私は、

「太宰くんを役員にするかどうか、の件?」

 と確認した。

「拙僧が当選した場合、太宰さんは役員に入れない予定でした」

「え……そうなの?」

「もともと、志邨しむらさんを入れる予定だったのです。各大学一名まで、という慣例があったので、太宰さんには外れていただくしかないと考えていました。しかしながら、役員になりたい、と言われたときに、どう断ったものかと、迷っていたのです」

 むむむ、そういう背景があったのか。

 私は、

「会長選にも出なかったし、本当は興味ないのかもね」

 と解釈した。

「左様だとよろしいのですが……とまれ、もうひとつ懸念点があります」

「もうひとつ?」

「じつは、将来を見据えて、来栖くるすさんにも入っていただきたいのです。しかし、帝大枠には、氷室ひむろさんがいらっしゃるので……」

 ここで、いきなりドアがひらいた。

 氷室くん登場。

「ご安心ください。風切会長引退と同時に、氷室ひむろ京介きょうすけも引退します」

 出たぁあああああああああッ!

 穂積さんは椅子から立ち上がって、

「まーた出たわね。八花やつかのボストン・クラブを喰らえッ!」

 と言って、逆エビ固めをキメた。

「いたたたたた」

 まあまあ、そのへんで。

 っていうか、盗み聞きしてたんじゃないでしょうね。

 ララさんも、

「スパイはダメだよ~」

 と諫めた。

 技を解かれた氷室くんは、床に這いつくばったまま、

「スパイじゃないよ……来年は……役員を辞退するって……報告……」

 と、ぜぇぜぇ言いながら反論した。

 いや、そこを不審がられてるわけじゃなくてですね。

 なんで他校のドアを都合よく開けるのか、という話でしてね。

 もう突っ込んでると疲れるし、とりあえず立ち上がらせることにした。

 大谷さんは、

「来年は名簿から外れる、ということで、よろしいのですか?」

 と尋ねた。

「オッケー」

「承知いたしました。では、次期役員名簿を発表いたします」


〔会長〕   大谷雛   (都ノ2)

〔副会長〕  日高虔   (慶長2)

〔会計〕   志邨つばめ (晩稲田1)

〔会計監査〕 矢追康一  (電電理科2)

〔渉外〕   土御門公人 (八ツ橋3)

〔渉外〕   新田元   (大和2)

〔庶務〕   来栖莉帆  (帝國1)

〔庶務〕   大河内勉  (治明2)

〔広報〕   春日ひばり (東方3)

〔ICT〕  磐一眞   (首都工2)


 おお、これが大谷内閣。

 バランスが取れてるんじゃないですかね。

 ララさんは、

「もうすぐ4年のひといるけど、いいの?」

 と訊いた。

 大谷さんは、

春日かすがさんは、広報を担当なさりたいそうです。あちらから、そう伝えられました。土御門つちみかどさんは、就職活動をなさらないので、問題ないかと。八ツ橋やつはし山名やまなさんか沖田おきたさんも考えましたが、あまり役員向きではないとのことで、見送らせていただきました」

 と答えた。

 ふむ……今の発言、だれかと相談したっぽい。

 たぶん、八千代やちよ先輩じゃないかなあ。

 あんまり突っ込まないでおく。

 大谷さんは、

「辞退なさるかたもいらっしゃるかもしれませんので、あくまでも暫定ということでお願いいたします」

 と付け加えて、両手を合わせた。

「これにて、ひとまず一件落着です」

 さいですね──あれ?

「大谷さん、クリスマスシーズンは、神崎かんざきさんと遊ぶって言ってなかった?」

「はい、申しました」

「……王座戦で、役員のあいさつがあると思うんだけど」

 バッティングしたのでは?

 と思いきや、大谷さんは軽く微笑んで、

「このようなこともあろうかと、遊ぶのは伊勢にしております」

 と答えた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………公私混同では?

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