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凛として駒娘──裏見香子の大学将棋物語  作者: 稲葉孝太郎
第66章 聖生復活(2017年10月23日月曜)
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432手目 先回り

「このなかに、銀行へ電話をかけたかたがいませんか?」

 全員、無表情になる──なろうとした。

 なりきれない。

 ばんくんなんかは、あからさまに目が泳いでいた。

 田嶋たじまさんは、私たちをぐるりと見回した。

「どうしました?」

 どうしましたも、こうしましたも──激烈にマズい状況なのでは?

 私は加担してないけど、電話をかけたメンツがいるっぽい。

 おそらくはあのとき*、お店に残ったメンバーだ。

 案の定、氷室ひむろくんが仕掛けた。

「銀行へ電話というのは、どういう意味ですか?」

 田嶋さんは、

「そのままの意味です」

 と返した。

 氷室くんは、なにも奇をてらわずに、

「そんなことを訊いて、どうするんですか?」

 とたずね返した。

 これは強いと思った。

 私だったら、窓口かネットくらいしか接点がないのでぇ、とかなんとか、のらりくらりしたかもしれない。ただこうしてみると、ストレートに訊き返したほうが、いいように感じた。

 田嶋さんも一瞬、間合いをとった。

「……最近、イタズラ電話がかかってきたとの情報があり、調査しています」

「イタズラ電話くらいで、警察が捜査するんですか?」

「その質問には、お答えできません」

 微妙過ぎる回答。

 今度は、氷室くんが攻めた。

「行きがかりで容疑者さがしをするのは、変だと思いますけど」

「そうですね……そこは失礼しました」

 さすがというか、食えないというか、田嶋さんはなにも弁明しなかった。

 あくまでも情報は明かさない、というスタンスらしい。

 氷室くんも引き下がった。

「とりあえず、僕たちは友人を捜しますから、このあたりで」

 田嶋さんは、

「呼び出しに応じないとなると、心配ですね。私も手伝いましょう」

 と申し出た。

 これをどう受けるのか、が問題になった。

 正直なところ、手伝ってもらうのもアリ──というか、そうしたほうがいいんじゃないか、という気さえした。太宰だざいくんの安全は、なにも保証されていないのだ。聖生のえる(?)がそう言ってただけ。

 氷室くんも、ここは独断しなかった。

 私たちに話を振った。

「みんな、どうする?」

 松平まつだいらは、

「この建物はだいぶ捜したし、正直、目星が……」

 と口ごもった。

 磐くんは、

「屋外じゃないのか? 駐車場は見てないぜ」

 と言ってから、私に、

裏見うらみは?」

 とたずねた。

 考えがまとまらない。

「……万が一のことを考えるなら、お願いしたほうがいいと思う」

 氷室くんは反対だった。

 最終的に磐くんも反対に回って、断るという結論に。

「承知しました。事件性を感じた場合は、すぐに警察へ連絡してください」

 田嶋さんはそう言い残して、表の入り口から消えた。

 捜す場所を、分担しなおす。私と松平は、建物の上層でまだ捜していないところを、氷室くんと磐くんは、屋外を回ることになった。

 私と松平は、早速エレベータへ向かった。

 松平は、

「屋内じゃないと思うが……」

 とつぶやいた。

 勘だけど、たぶん屋内じゃない。

 とはいえ、確証もないから、念入りに──ん?

「そういえば、大谷おおたにさんたちは?」

「警備員と交渉中だろ」

 長過ぎじゃない? と思った途端、うしろから声をかけられた。

 火村ほむらさんだった。大谷さんも一緒だった。

香子きょうこ、さっきのは?」

「さっきのって……もしかして、見てたの?」

「ごめん、隠れてた」

 あのさぁ。

「で、さっきのは?」

 答えるよりも先に、エレベータがついた。

 とりあえず乗りこんで、事情を説明する。

 火村さんは、

「警察? 大円だいまるの件?」

「大円銀行かどうかは、わかんなかった」

 よくよく考えてみたら、聖生のえるの貸金庫の話だとは、限らない。

 たまたま質問された私たちに──特に氷室くんと磐くんに──うしろめたいことがあっただけ、というパターンかも。

 ひとまず、太宰くん捜しを優先。私と松平が奇数階、火村さんと大谷さんは偶数階を担当した。どんどん上がっていく。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………全然ダメ。見つからない。

 しかも、入れない場所が多過ぎる。

 商業用オフィスや区のオフィスには、当然入れないし、なにに使われているのか、よくわからない部屋も多かった。ノックもできない。

 しょうがないから、話しかけられるひとに、手当たり次第話しかけた。

 これもダメ。

 1階で大谷さんたちと合流したときには、なんの手掛かりもなかった。

 4人で相談。

 火村さんの意見は、

「騒ぎになってないところをみると、人目につく場所には、いないと思うのよね」

 だった。

 たしかに、ひとが倒れてたり監禁されてたりしたら、とっくに発見されていそうだ。

 松平は髪をくしゃくしゃにして、

「やっぱ屋外か」

 と言った。

 一方、大谷さんは思案顔で、

「そのタジマというかたは、本当に警察官なのですか?」

 と確認を入れた。

 私と松平は、顔を見合わせる。

 松平は、

「まあ……警察手帳もあったし……」

 と説明した。

 火村さんは、

聖生のえるが逃げるための時間稼ぎをしてた、って可能性は?」

 と疑った。

 なくはなかった。あのひとが現れて、捜索が中断したのは事実だ。

 気まずい空気が流れる。

 大谷さんは、

「ひとまず、駐車場へ行ってみませんか? 人を隠すなら、車は有力候補です」

 と提案した。

 全員が賛成して、移動しかけたとき──

「きみたち、さっきからなにしてるの?」

 制服を着たおじさんに、声をかけられた。

 どうやら警備員さんっぽい。

 松平は、

「え、その……」

 と言いよどんだ。

「階を上がったり下がったりしてるよね? どうしたの?」

 監視カメラに映ってて、あやしまれたくさい。

 松平もそれに気づいて、

「友だちが迷子になって、捜してるんです」

 と返した。

「迷子? ……きみたち、将棋の学生さん?」

「あ、はい、そうです」

「きみたちが使ってる会場にいるんじゃないの? 15階」

 まあ、そう思われるわよね。

 大学生が、こんな都会の建物で迷子なんて、普通ないし。

 どうしたものかな、と悩んでいると、警備員のおじさんは、

「いつ迷子になったの?」

 と、妙に調子を変えた。

 なんというか、心配そうな感じになった。

 松平は、

「正確な時間は、ちょっと……」

 と答えた。

「何時間も前?」

「今日はまだ顔を見てなくて……」

 おじさんは、急に深刻そうな顔をして、

「2時間ほど前に、救急車で運ばれた子がいるんだけど、その子?」

 と言った。

 私たちのあいだに、衝撃が走った。

 松平は、

「救急車? ケガですか?」

 と、早口でたずねた。

「車のなかで、急病人が出てね」

「車? だれの車ですか?」

 わからない、とおじさんは答えた。

 所有者が不明なせいで、救急隊員が困ってしまい、その対応をしたのが、このおじさんらしかった。鍵がかかっていなかったから、最後は無断でドアを開けた、とのこと。倒れていたひとは、容姿からして、太宰くんの可能性が高かった。

 だけど、病院の行き先がわからなかった。

 私たちは、近隣の病院へ電話をすることに。

 4人ともスマホを取り出した瞬間、火村さんの目が光った。

「所有者不明ってことは、だれが通報したの?」

「え……ああ、警察のひとだよ」

「どんな警官?」

「若い男のひとだけど……メガネをかけた私服の……それがどうかしたのかい?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………ハメられたッ!

*358手目 解散

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