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凛として駒娘──裏見香子の大学将棋物語  作者: 稲葉孝太郎
第40章 幽霊部員ストーカー事件(2016年12月5日月曜)
251/486

245手目 映っていた女

 アパートと民家に囲まれた、質素な公園。

 もう5時だから、あたりは暗い。街灯がついていた。

 すべり台、ぶらんこ、ベンチ。それから小さな花壇。

 まわりには、おとなの背丈ほどの植え込み。

 のぞいたりのぞかれたりを防ぐためだろう。

 北風が寒い。

 私はコートを押さえた。なるべく風に当たらない位置どりをした。

 ばんくんはローラーブレードで、公園内を一周した。

 私のまえで止まる。

「ここが現場? ストーキング向きじゃなさそうだけど?」

 んー……言われてみると、そうなのよね。

 粟田あわたさんの説明だと、この公園のはず。

 だけど、まわりにひとが住んでいて、大声を出されたら一発アウトだと思う。

 もしかして、ほかにも似た公園があるのかしら。

 私は「たぶんね」と、あいまいに返した。

 磐くんはポケットに手を入れたまま、小さな円をえがいて走った。

「しかも、隠れる場所がなくない?」

 私は、川沿いの道をゆびさした。

「あそこからのぞいてたらしいわよ」

 みんなそちらをみる。

 フェンスの中央に、小さな出入り口があるのだ。

 自転車が入れないように、2本の金属ポールが立っていた。

 日高ひだかくんはこれをみて、

「その子の勘違いじゃないのか?」

 と言った。

 うーん……いざ現場に来てみると、否定できない。

 というのも、時間帯がポイントなのだ。

 街灯はあるけど、入り口近くにはない。道沿いにもない。

 家屋も川沿いにはないから、まっくらに近かった。

 磐くんはコートの内側から、双眼鏡のようなものをとりだした。

 両目にあてて、入り口のほうへむけた。

「……あったあった、あの電柱か」

 どうやら入り口付近の電柱をみているらしかった。

 松平まつだいらは「暗くてなにもみえないぞ?」とたずねた。

「地上3メートル付近に、放熱してる物体がある」

「放熱? ……それ、赤外線付きか?」

 磐くんは双眼鏡を松平に渡した。

 松平ものぞきこむ。

「……たしかに熱源があるな」

 磐くんはローラーブレードで、ぐるりと一回転。

「……防犯カメラでまちがいないよ。あのカメラから情報を抜こうぜ」

 松平は双眼鏡を返しながら、

「公園の管理者のものだろ。さすがに犯罪だ」

 と指摘した。正論。

 お願いだから、あんまり無茶はしないでください。

 停学になると洒落にならない。

 磐くんは肩をすくめた。

「チェッ……とはいえ、あの位置じゃあ道路は映してないか。犯人が公園に入らなかった以上、顔は分かんないだろうな……となると、もう一台のほうだ」

 松平は「もう一台?」とたずねた。

 私も意味がわからない。

 磐くんはニヤニヤしながら、

「防犯カメラの設置場所なんて、だいたい決まってるんだぜぇ」

 と返し、いきなり走り出した。

 ちょっと、どういうこと?

 あんまり振り回さないでくださいな。

 私たちはあわてて追いかけた。


  ○

   。

    .


 20分後──私たちは都ノみやこの大学にいた。サークル棟の玄関前。

 さすがに冬場だから、屋外の休憩コーナーにはだれもいなかった。

 磐くんは、

「さてさて、このへんにあるはずだけど……」

 と言いながら、あたりをきょろきょろした。

 赤外線を使うまでもなく、防犯カメラは簡単にみつかった。

 入り口の自動ドアのところに、ちゃんと備えつけてあった。

 松平は腕組みをして、

「なるほど、女ストーカーのほうは映ってそうだな」

 と、しきりに感心していた。

「へへへ、というわけで、あのカメラのデータをぶっこ抜こうぜ」

 いやいやいや、待ってください。

 なんで犯罪前提なんですか。

 さすがに日高くんがわりこんだ。

「他大の情報を抜くのはまずいと思うが」

 磐くんは、

「事件性があるからいいだろ。人助け人助け」

 と答えた。

 そういう問題じゃない気がする。

 私は松平のそでをひっぱって、耳打ちした。

「あんまり磐くんを暴走させないほうがよくない?」

 松平も小声で「そうだな……」と答え、磐くんに話しかけた。

「おい、磐、グレーゾーンの捜査はひかえないか?」

「なに? ビビってんの?」

「ビビってるビビってないじゃなくて、違法だろ」

「そういうこと言ってるから日本はダメなんだぜぇ。規制反対」

 磐くん、じつは危険思想の持ち主なのでは。

 ちょっと心配になってきた。

 私はすこし思案して、この場をごまかす。

「ここは寒いから、部室に行かない?」

 磐くんはカメラにこだわった。

 はいはい、入る入る。

 私は大谷おおたにさんと連携して、男子を建物内に押し込んだ。

 エレベーターで部室へ──ん? 部室に明かりが?

 ドアの小窓から光がもれていた。

 風切かざぎり先輩たちが先に……もどってきてるわけないか。飲み会でしょ。

 私は警戒した。ほかのひとを呼び止める。

「待って……不法侵入されてない?」

 松平がふりかえる。

「ララじゃないか?」

「ララさんは今日、渋谷へ遊びに行ってるわよ」

「マジか?」

 松平はまじめな顔になった。

 私たちはこっそりとドアへ忍びよる。

 聞き耳を立てた──なにも聞こえない。

 松平は小声で「新田にった、1、2、3で開けるぞ」とささやいた。

 新田くんはガッツポーズで答えた。

「……1、2、3」

 

 ガラリ

 

 中には……あれ? だれもいない?

 そう思いきや、ソファーでだれかが寝ていた。

 穂積ほづみお兄さんだった。

 松平はホッとして「おどかさないでくださいよ」と言った。

 すると、穂積お兄さんは目をさました。上半身を起こす。

「ん? 八花やつか? ……あれ? みんなどうしたの?」

 それはこちらのセリフ……というわけにもいかないか。

 私たちのほうがいきなり入って来たわけだし。

 松平は事情を説明した。

 穂積お兄さんはにっこりして、

「奇遇だね。じつは僕も調べてたんだよ」

 と答えた。そして、パソコンの画面をゆびさした。

 私たちがのぞきこむと、白黒の映像が流れていた。

 この構図、どこかで見たような……あッ! サークル棟の玄関ッ!

 松平はびっくりして、

「防犯カメラのデータを盗んだんですか?」

 とたずねた。

 穂積お兄さんは笑った。

「松平くん、ひと聞きが悪いなあ。防犯カメラの映像が無線LANから漏れて、パソコンに()()()映るんだよ」

 磐くんがゆびをパチリとはじいた。

「さすが穂積先輩。電波は漏れますからね。()()()()映るのはしょうがないですね」

 いやいやいや……聞かなかったことにしておこう。

 私があきれるなか、捜査は進捗した。

 穂積お兄さんはここ数日、防犯カメラの映像を記録していたらしい。

 妹をストーカーから守るためとかなんとか。犯罪的シスコン。

 とりま結果オーライだ。

 氷室ひむろくんが見かけたという怪しい女。その時刻の映像を調べてみた。

 黒いコートにマスクとサングラスの人影が、ばっちり映っていた。

 氷室くんは、

「あ、このひとです。画質は悪いですけど、まちがいありません」

 と証言した。

 そのよこで、私は映像をみながら固まっていた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………これ、女装した和泉いずみプロじゃない?

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