表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凛として駒娘──裏見香子の大学将棋物語  作者: 稲葉孝太郎
第40章 幽霊部員ストーカー事件(2016年12月5日月曜)
248/486

242手目 回収されたフラグ

「俺が会長ッ!?」

 お昼休みの部室に、風切かざぎり先輩の声がこだました。

 風切先輩は椅子からたちあがって、三宅みやけ先輩にからんだ。

「ま、待て……なにかのまちがいだよな?」

「いや、俺が開票現場にいたんだ。まちがいない」

「もこっちはッ!? 爽太そうたはどうなったッ!?」

「38票中15票で隼人はやとがトップだった。あきらめろ」

 風切先輩は、その場にへたりこんだ。

「そんなバカな……」

 部員たちは、おたがいに顔を見合わせる。ソファーで寝っ転がっていたララさん、テーブルで談笑していた私と松平まつだいら大谷おおたにさん。ほかのメンバーは来ていなかった。

 ララさんはファッション雑誌を閉じて、ひとこと。

「フラグたてまくってたから残当ざんとうじゃな〜い?」

 煽らない煽らない。

 とはいえ、なんで選ばれないと思ってたのか謎すぎる。

 元奨の肩書きはわりと大きいでしょ。

 風切先輩はふらふらと立ち上がった。

「で、なにをすればいい? 辞表を書けばいいのか?」

「だからあきらめろって。ほかの役員を決めるのが初手だ」

 三宅先輩の話によれば、会長職以外は互選ですらないらしい。

 会長の独断で選任できるとのことだった。

 風切先輩は、うしろで束ねた髪をくるくるしながら、

「あぁ……じゃあ三宅、副会長やれ」

 と言った。

 ダメでしょ。三宅先輩もタメ息をつく。

「おまえ、政治のセンスゼロだな……」

「数学に政治はないんだよ」

「おなじ大学で会長、副会長はないだろ」

「……そうなのか?」

 これはいろいろと不安になってきた。

 大谷さんも口をはさむ。

「ひとまず昨年度の役員リストを参考にするのは、いかがでしょうか」

 そうそう、まずは慣例を調べないとね。

 三宅先輩は連合のHPにアクセスして、ホワイトボードに名簿を転記した。


〔会長〕   入江直哉  (電電理科3)

〔副会長〕  三和遍   (慶長3)

〔会計〕   縦山昭一  (大和3)

〔会計監査〕 朽木爽太  (晩稲田2)

〔渉外〕   土御門公人 (八ツ橋2)

〔渉外〕   速水萠子  (日セン2)

〔庶務〕   傍目八千代 (治明2)

〔庶務〕   別所秀則  (帝国4)

〔広報〕   春日ひばり (東方2)

〔ICT〕  金子孟   (首都工3)


「来年の会長は隼人はやとで決まり……と」

 三宅先輩は、入江会長のところに二本線を引いて書き換えた。

 とりあえず傾向をさぐる。

 大谷さんが、

「一校につきひとり、という方針のようですね」

 とコメントした。

 これを聞いて、風切先輩は青くなる。

「ちょっと待て……都ノみやこのからは指名できないってことか?」

 そうなんじゃないですかね。

 風切先輩は困り果てた。

 ほんとに案を用意していなかったのか。

 とりあえず、埋めやすいところから埋めれば、と思ったけど、そうもいかない。

 どこをどう動かせばいいのか、私にもよくわからなかった。

 しかたがないので、三宅先輩は一昨年おととしの名簿もチェックした。

「……ん、半分は持ち上がりになってるな。入江いりえ三和みわ縦山たてやま別所べっしょ金子かねこは、一昨年おととしも役員だ。入江が会計、三和が渉外、別所が庶務、縦山が会計監査、金子がICT」

 ようするに、今年の2年生は全員初顔で、3・4年生は去年もやったってことか。

 風切先輩はじっとリストをみた。

「……2年生は全員続投させる」

 三宅先輩はスマホをしまいながら、

「ああ、俺もそれがいいと思う。そのなかから副会長を選ぶのはどうだ?」

 とアドバイスした。

 ここからは風切先輩と三宅先輩のあいだで、トントン拍子に進んだ。

「もこっちと爽太、どっちの得票数が多かった?」

「速水13、朽木10」

「よし、もこっちが副会長だ。爽太には会計をやってもらう。縦山が監査→会計なら、それをマネたっていえば説明がつく。あいつの実家は金融系だしな。公人きみひと傍目はため春日かすがはそれぞれの役職で続投」


〔会長〕   風切隼人  (都ノ2)

〔副会長〕  速水萠子  (日セン2)

〔会計〕   朽木爽太  (晩稲田2)

〔会計監査〕 ????  ()

〔渉外〕   土御門公人 (八ツ橋2)

〔渉外〕   ????  ()

〔庶務〕   傍目八千代 (治明2)

〔庶務〕   ????  ()

〔広報〕   春日ひばり (東方2)

〔ICT〕  ????  ()


 これをみたララさんは、

「来年はplus oneするんだよね? なんか高齢化してない?」

 とコメントした。

 たしかに、去年よりも平均年齢があがってるような。

 風切先輩は腕組みをして、

「知り合いが同学年に偏ってる。しょうがない。のこりの4枠で調整しよう」

 ん? つまり……今の1年生から選ぶってことよね。

 風切先輩は、私のほうをみた。

火村ほむらは、どうだ?」

 うわぁ、難問。

 私は思案する。

「……ちょっとわからないです。しっかりしてるところもあるんですけど、ノリが役員向きじゃないというか、わりとワンマンになっちゃう気が……」

 風切先輩は椅子に腰をおろした。

 足を組み、あごにこぶしをあてて考え込む。

「……ほかの1年生で、めぼしい人物はいるか?」

 風切先輩は、私、大谷さん、松平、ララさんにたずねた。

 私たちは顔を見合わせる。

 松平がすこし言いにくそうに口をひらいた。

「あの……あんまり役に立たない情報だとは思うんですが、太宰だざいがやりたがってます」

 風切先輩は、怪訝そうな顔をした。

「役員を、か?」

「はい」

「あいつがじぶんでそう言ったのか?」

「直接的にじゃないですが、雰囲気からしてそうかな、と」

 風切先輩は、ふたたび考え込んだ。

 けど、太宰くんはひとつ問題があるのよね。

 風切先輩もすぐに気づいた。

「太宰はダメだ。晩稲田おくてだの枠はもう埋まってる」

「ですよね……すみません、不要な情報だったかもしれないです」

「いや、かまわないぞ。爽太が辞退しないとは限らないからな。ほかには?」

 私たちは沈黙する。

 これ、なにがむずかしいって、大学縛りがあること。

 それがなければ、たとえば大河内おおこうちくんでもいいかな、という気がする。

 なんかマジメそうというか、理詰めでしゃべるから渉外向きだと思う。

 だけど、彼は治明おさまるめいなのだ。八千代やちよ先輩とバッティングしてしまう。

 ここでまた大谷さんがコメント。

慶長けいちょう日高ひだかさんは、いかがでしょうか」

「ん、わりと知ってる仲か?」

「全国大会でお会いした程度です。が、慶長のだれかは入れておくほうがよいかと」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あ、そういうことか。

 風切先輩も納得した。

「なるほど……上位校は入れておいたほうがよさそうだな」

「三和さんの後任ということもありますので」

「日高のことはよく知らないが、マジメそうではあるな……よし、A級から選抜しよう。まだあがってない常連は……大和やまと……大和の1年生は……新田にったか。体育会系だな」

 見た目は、ね。こまで一回だけ指したけど、ふつうに強かった。

 三宅先輩は、

「公人と組ませれば、うまくやってくれるんじゃないか」

 という意見。

 風切先輩も同意した。

「のこりは……帝大ていだいだな。ん? 帝大の1年?」


 ガラッ


「そうですッ! 僕ですッ!」

 うわぁあああああッ!?

 いきなりの氷室ひむろくんの登場で、部室はパニックに。

 風切先輩は椅子からとびあがった。

「だからストーカーするなって言ってるだろッ!」

「いえいえ、たまたまですよ。遊びにきました」

 ほんとぉ? タイミングが良すぎでしょ。

 氷室くんは悪びれもせずに、部室に入ってきた。

「というわけで、風切内閣に入らさせていただきます」

「まだ指名するとは言ってないだろ。帝大にはほかにもいたしな。えーと……」

「名前が思い出せない時点でアウトですね。どうぞ、ご指名を」

 風切先輩は閉口してしまった。

 とはいえ、帝大の1年生で先輩と仲がいい(?)のは、氷室くんなのよね。

 あと何人かいたはずだけど、私もすぐには名前が出てこなかった。

 先輩はタメ息をつく。

「わかった。会計監査」

氷室ひむろ京介きょうすけ、会計監査を拝命いたしました。数学の知識を活かしてがんばります」

「つっても四則演算くらいだろ……三宅、ほかのA級常連校は?」

「首都工業。ちょっと回数が少ないのが電電でんでんだな。電電はほぼBの番人だ」

「首都工……ばんか。ただ、性格的に……」

 ここで松平が口をはさんだ。

「ちょっと自己中なところがありますけど、俺の意見はわりと聴いてくれるんで、知らないメンツよりはいいかもしれません」

 風切先輩はパチリとゆびを鳴らした。

「よし、だったらこれで決まりだ」


〔会長〕   風切隼人  (都ノ2)

〔副会長〕  速水萠子  (日セン2)

〔会計〕   朽木爽太  (晩稲田2)

〔会計監査〕 氷室京介  (帝大1)

〔渉外〕   土御門公人 (八ツ橋2)

〔渉外〕   新田元   (大和1)

〔庶務〕   傍目八千代 (治明2)

〔庶務〕   日高虔   (慶長1)

〔広報〕   春日ひばり (東方2)

〔ICT〕  磐一眞   (首都工1)


 なかなかいいんじゃないですかね。

 出身校のバランスはとれてるし、関東の主要なメンツがあつまった。

 風切先輩は、ホッとひと息。

「任務完了だぜ」

「まだ始まったばかりだぞ。とりあえず、伊勢に行くことはほぼ確定だ」

 風切先輩は眉をひそめた。

「伊勢? ……王座戦か?」

「そうだ。関西の新役員も来る。顔合わせをするのが慣例らしい」

 風切先輩はめんどくさそうな顔をした。

 けど、どのみち渡りに船なのよね、部としては。

 風切先輩もあきらめ気味に、

「了解。もともと部で行くって話になってた。最後のひと押しってわけか」

 とつぶやいた。

 私と松平は、こっそりアイコンタクトをする。

 ま、そういうことで、クリスマスデートはおあずけ。

 とりま、これにて一件落着──と思いきや、氷室くんが妙なことを言い出した。

「そういえば、都ノはまた新入部員が入ったんですね。何年生のかたですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=891085658&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ