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凛として駒娘──裏見香子の大学将棋物語  作者: 稲葉孝太郎
第24章 激突!関東vs関西(2016年6月19日日曜)
139/487

139手目 東西リベンジマッチ

【先手:三和みわあまねvs後手:藤堂とうどうつかさ

挿絵(By みてみん)


申命館しんめいかん将棋部が日本一であることを、この場で証明してやろう」

「そんな恥ずかしいセリフ、うちのイキリ研修医でも言わないよ」


【先手:宗像むなかた恭二きょうじvs後手:朽木くちき爽太そうた

挿絵(By みてみん)


「俺にアタリにきた度胸だけは褒めてやるよ、びんぼっちゃま先輩」

「こういう役目は公人きみひとにやって欲しかったのだが。まあ、お手合わせ願おう」


【先手:速水はやみ萠子もえこvs後手:姫野ひめの咲耶さくや

挿絵(By みてみん)


「去年の王座戦以来ですね、速水さん。リベンジさせていただきます」

「あなた、お嬢様のわりに器が小さいのね。もっと大きく生きなさい」


 か、関東と関西が正面衝突してしまった。いったいどうすれば。

 困惑する私の肩に、いきなり手がおかれた。どさくさの痴漢かと思ってふりかえる。

「た、たちばなさんッ!?」

「こんばんは……たいへんなことになっているようですね」

「なんでここに?」

「ぼっちゃまのいらっしゃるところに橘可憐あり、ですよ」

 か、関西勢3人とはべつの意味で怖い。

「しかし、困ったことになりました。入江いりえ会長からヘルプが入ったかと思いきや、まさか関西勢の道場荒らしとは。氷室ひむろくんが入院したというのは、ほんとうですか?」

「は、はい……シックハウスで大したことはないらしいです……多分……」

 私は氷室くんのお父さんのことを思い出した。

 それについても、年上の橘さんになにか訊きたい気がした。でも、対局が気になる。

 周囲にはだいぶ人だかりができていた。私は最前列に自分の場所を確保する。


【先手:速水vs後手:姫野】

挿絵(By みてみん)


 うわぁ、横歩の青野流だ。激しくなりそう。

 そう思ったのもつかのま、速水先輩はすぐに7四飛と切った。

 同歩、3八銀、2八飛。

 いきなり飛車を打たれている。

 速水先輩はこの手をみて、

「あいかわらず過激なのね」

 と言ってから、2七歩と打った。あれ? 後手の飛車が死んでない?

 姫野先輩は顔色ひとつ変えずに答える。

「どれほど細い攻めも通せば成立するのです。2六歩」

「原告のムリ攻めは最高裁さいこうさいで止められちゃうのよ、3九金」

 2七歩成、2八金、同と。


挿絵(By みてみん)


 い、いきなり飛車を捨てた。これは姫野先輩の893攻めが出そう。

 4九銀、3九と、5八銀、3八とと、姫野先輩は先手陣を荒らした。

 私は中央席に目を転じる。


【先手:宗像vs後手:朽木】

挿絵(By みてみん)


 こっちは角換わりか。がっぷり四つに組んでいる。

 朽木先輩には悪いけど、ここの分が一番悪い。先輩は氷室くんに個人戦で負けて、氷室くんは東西対抗戦で実質的に宗像くんに負けていたからだ。

 まだまだ駒組みとみて、私は1番席へ視線をうつした。


【先手:三和vs後手:藤堂】

挿絵(By みてみん)


 ここも横歩かぁ。

 学生将棋で横歩ってことは、そうとう自信がある証拠だ。

 定跡が日進月歩だし、イレギュラーな局面に対応する力も問われる。

「8六歩だ」

 藤堂さんは歩を打った。横歩は攻めが切れると後手不利になる。

 三和さんはノータイムで同歩。

 以下、同飛、4六銀、7三桂、3五歩と進んだ。


【先手:三和vs後手:藤堂】

挿絵(By みてみん)


「ほぉ、角頭かくとうにプレッシャーか」

「普通の手だけどね。藤堂はあいかわらずオーバーリアクションだなぁ」

「三和にオーバーリアクションをさせる手を指したいものだな。7六飛」

 3三角成、同銀、6八玉。

 後手はやや変則的なかたちになった。3三角成には同桂が普通だからだ。これを同銀としたのは、同桂だと3四歩で桂馬が死んでしまうから。4六銀も3五歩も、3三角成に同銀とさせる布石だ。

「やるな……しかし、この手はどうだ? 4四歩」


【先手:三和vs後手:藤堂】

挿絵(By みてみん)


「いい手だね。4五歩、同銀は5五角で先手が死ぬ」

「かといって、いまさら銀を撤退もできまい。さあ、どうする?」

 三和さんは29秒ぎりぎりまで考えて、8七金とあがった。

 7五飛、7六歩、8五飛、8六歩、8四飛。

「後手の攻めは頓挫したんじゃないかな。2五飛」


【先手:三和vs後手:藤堂】

挿絵(By みてみん)


 強い。三和先輩、攻勢に出る。

 その瞬間、3番席が湧いた。ギャラリー静粛に。


【先手:速水vs後手:姫野】

挿絵(By みてみん)


 うッ……これは厳しい。桂馬を逃げると挟撃になるから取るしかないけど……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 速水先輩は同金と取った。姫野先輩はすかさず角を打ち込む。

「5九角」

 7九玉に5八とと迫る。これも痛い。同銀は6八金で詰んでしまう。

「日頃のストレスを晴らすような攻め、嫌いじゃないわよ。7七角」


【先手:速水vs後手:姫野】

挿絵(By みてみん)


 ん、これは受かってるの? 何通りか処理の仕方がある。

 同角成は逃げ道を作ってお手伝いだから、単純に6九と、同玉、3七角成かしら。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 姫野先輩は6九とと入った。同玉、4八角成。

 え? そっち? 馬を自陣に効かせないの?

 ところが、速水先輩のほうは納得顔で、

「ふぅん、そういう方針か……ま、受けて立つわ。1一角成」

「5七馬」


【先手:速水vs後手:姫野】

挿絵(By みてみん)


 これは5三桂成で王手馬になるのでは――と思った瞬間、5三桂成が指された。

 姫野先輩はノータイムで4一玉と引く。

「へぇ、そこで耐えるわけ」

「速水さんの玉は詰めろですが? しかも金駒かなごまがありません」

 私は速水先輩の持ち駒を確認した――飛車と香車しかないじゃないですかッ!

 6八香は5八金から潰されてしまう。6八飛しかない。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「6八飛」

「4二銀」

 速水先輩のシンキングタイム。私は他の対局も確認する。


【先手:宗像vs後手:朽木】

挿絵(By みてみん)


 せ、先手右玉になってる……いい勝負? 三和先輩のところは?


【先手:三和vs後手:藤堂】

挿絵(By みてみん)


 わお、すっごい押してる。

「くッ、患者をなぶるような指し手だな」

 藤堂さん、言ってることがめちゃくちゃ。

「あした解剖学の授業なんだけど、ついでに解剖してあげようか?」

「俺は血を見るのが嫌いでな。鼻血もダメだ」

 意外とデリケートで笑う。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシーン!

 

【先手:三和vs後手:藤堂】

挿絵(By みてみん)


 ふわッ!? なにこれ? ギャラリーもざわついた。

 三和先輩もかなりおどろいたらしく、さっきまでの軽口が消えた。

「それが三和のオーバーリアクションか。もうすこし変顔になってくれ」

「……」

 三和先輩は黙って考え込んだ。手の意図が読めないのだろう。私も読めない。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「同歩成」

「同桂だ」

 藤堂さんはニヤリと笑った。

 飛車銀両取りを決めたってこと? 桂馬を捨てたら意味なくない?

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 三和先輩は3五飛と逃げた。

 4五桂、同飛。

「飛車馬交換が狙いだと思ったか? 5六馬」


【先手:三和vs後手:藤堂】

挿絵(By みてみん)


「「「!」」」

 棋力のそこそこあるメンツは、この手にアッとなった。

 同歩からの2七角だ。飛車金両取りになる。

「……」

 三和先輩が動揺したのは一瞬だけ。表情には出さなかった。

 でも動揺したのはまちがいない。私は藤堂さんが口だけでないことを悟った。

 3三桂打からこの局面の青写真をつくれるなんて、強すぎる。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


 三和先輩は5六歩と取った。藤堂さんは2七角。

「3三歩」

「……同金」

 三和先輩は5五角をはなつ。

 

【先手:三和vs後手:藤堂】

挿絵(By みてみん)


 うまいッ! 金銀両取りをかけ返した。4五角成なら7三角成で駒損がない。

「さすが慶長けいちょうの前主将。一筋縄ではいかんか。6四香」

 ん? 銀を守っただけ? 3三角成があるのに? 同銀と取れないわよ?

 三和先輩も警戒した。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 最後まで考えて3三角成を選択。

 藤堂さんはようやく4五角成で飛車を抜いた。

 三和先輩は桂馬を一回カラ打ちして、秒読みに入った。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ

 

【先手:三和vs後手:藤堂】

挿絵(By みてみん)


 ……め、めちゃくちゃ好手。

 3三銀は3二金で詰みだ。3一歩と受けても3二金と放り込まれて詰む。

「好手には好手で返すのが申命館のマナーだ。同馬」

「桂馬を取ってるだけじゃん。同馬」

「1手先走った。こっちだ。6七香成」

 うわッ……これは……三和先輩も覚悟を決めたように同玉とした。

「6九飛」


【先手:三和vs後手:藤堂】

挿絵(By みてみん)


 くぅ、こんどは王手金銀の3面取り。

 ふたたびギャラリーが湧く。静粛に、静粛に。

「ギャラリーが盛り上がってるところ悪いけど、それは読み切り。6八銀」

 藤堂さんは4九飛成とした。先手陣が一気に危なくなる。

 三和さんも真剣な表情。まるで公式大会のようだ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「3三桂ッ!」

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