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邂神

「今日の夜ご飯どうしよう。」

 高校からのいつもの帰り道、自転車をこぎながら僕はそんなことを考えていた。これから始まる非日常的な生活のことなど夢にも思わずに。


「カレーは・・・じゃがいもが無いか。うーん・・・。」

 今日の晩飯をどうしようか、そんなことを考えながら家への道をはしっていた。近道をしようと大通りから裏道へ入り道を一本曲がった時だった。目の前に突然白い物体が飛び出してきた。

「危ない。」

 とっさにハンドルを切ったが時すでに遅し、白い物体とぶつかりのまま僕は電信柱に激突し倒れ込んだ。

「うっ。」

 僕は起き上がり血が出ていないか確認する。体のあちこちが痛むが血は出ていないらしい。僕は飛び出してきた物体が飛んでいった方向を見た。そこには体の所々を赤色に染めた白猫の姿があった。

 恐る恐る近づき触れてみるが白猫は動かなかった。

「死んじゃった?」

 心臓のあたりを触ってみると脈があった。

「よかったぁ。」

 生きていることに安堵していると後ろの方から声が聞こえてきた。

「さつき好きだよ。」

「えへへ、私も大好き。」

 どうやらカップルらしい。くそリア充が、さっさと別れてしまえ。そんなことを思いながら僕は自転車を起こしにかかった。このままの状態にしておくとあのリア充カップルが話しかけてくるだろう。彼女いない歴15年の僕にとっては辛すぎる。

 自転車に飛び乗り漕ぎ始めようとしたときふと血まみれの白猫に目がいった。この猫を見たらあのカップルはどう思うだろう。おそらく前を走っている僕がひいたと考えるだろう。それはなんかちょっと嫌だ。

「はぁー、仕方ない。」

 白猫を自転車のかごに入れ僕はこぎ始めた。幸いここから家までは人通りの多い道を通らずに行ける。それにしてもこの猫はどうしよう。悪いのは僕だし応急処置だけして逃がすか。

「それで堪忍してくれよ。」

 僕は気絶している(そもそも人の言葉が理解できないであろう)猫にそう話しかけた。


 家に着きまず猫を洗って傷口を探し包帯なり絆創膏をした。消毒薬があるにはあるのだが人用のもので猫に使っていいのかどうかわからなかったのでつけなかった。次に猫の寝床を作った。寝床といってもダンボールにタオルを敷いただけのものだ。これだけの作業に1時間もかかってしまった。慌てて服を着替え料理を作り始める。疲れたので夕ご飯は非常食のカップラーメンだ。ラーメンを食べ終わってもまだ猫は目覚めない。一瞬死んでしまったのかと思ったが確認すると脈はあった。

「まぁ好きなだけ寝てろ。」

 そう言い残し僕は風呂に入った。あらためて見てみると体のあちこちにすり傷や切り傷がたくさんあった。コンクリに倒れたから仕方ないか。

 風呂から上がってもう一度猫の様子を見た。あいも変わらず脈はあるのに目覚めない。

「こりゃ明日の朝になるな。」

 そう思い猫の寝床を布団の隣に移動させた。

「ねこ、お休み。」

 そう言い自分の布団に入ると、いろいろあって疲れたせいかすぐに寝付いてしまった。


 朝、寒くて目が覚めた。気づくと布団からはみ出していた。どうりで寒いわけだ。時計を見るとまだ朝の4時だった。もうひと眠りしようと布団に戻ろうとして掛け布団をめくるとそこには人の手があった。

「うわっ。」

 驚いて思わず尻餅をついってしまった。恐る恐るもう一度布団をめくるとそこには確かに人の手があった。夢かと思い頬をつねってみると

「痛っ。」

 痛かった。夢ではないようだ。思い切って布団を全部めくってみた。

「っ。」

 そこには可愛らしい巫女装束を着た少女が気持ちよさそうに寝ていた。歳は僕と同い年ぐらいだろうか。そんなことを思いながら見つめていると。

「うーん。寒い。ふぁぁー、うん?ここどこだ。」

 と彼女は周りを見渡した。そして僕のほうを見た。すると次の瞬間ものすごい速さで後ろに跳び退った。しかし跳び退ったところにはタンスがあり案の定彼女はタンスにぶつかり倒れた。

「大丈夫?」

「う、うるさいっ。この猫又の部下が。こ、殺すならさっさと殺せ。」

 と痛がりながらも鋭い視線で僕を睨みながら言った。

「猫又ってなんだよ?ていうか誰?勝手に人の家の人の布団で寝て。」

「それが神に対する口の利き方か?恥を知れ、恥を。」

「神様?」

「いかにも招き猫の神のサクラじゃ。平伏してもいいのじゃぞ。」

「頭大丈夫?」

 どうやらかわいそうな厨二病らしい。

「嘘なんか付いとらんわ。」

「じゃあさ、神様だとして、なんで家にいるの?」

「うん。どうしてじゃったかなぁ。うーん。」

 僕のことなど眼中にないように悩み出してしまった。

「あのー。神様?」

「おう、そうじゃそうじゃ思い出したぞ。お主が儂を連れきたんじゃ。この誘拐魔が。儂を誘拐して何をするつもりじゃったのじゃ。言っとくが身代金は出んぞ。」

「僕はお前のことを連れてきてないし誘拐魔でもないよ。」

「いいや、確かにお主が連れてきた。私が猫又から逃げている途中何かにぶつかって動けなくなったところをお主が連れ去ったんじゃ。さぁ覚悟しろよこの誘拐魔。サクラがいるかぎりこの世に悪は栄えない。」

某アニメのセリフをパクっていたが触れないでおく。

「動けなくなったところを連れ去った?」

・・・。もしかして。

 思ったとおり昨日猫を入れておいたダンボールを見てみるとそこに猫の姿はなかった。

「君、もしかして昨日僕の前に飛び出してきた猫?」

「まぁ急いで逃げておったからお主の前に飛び出したのかもしれん。」

 やっぱり。僕、神様ひいちゃったんだ。

「確かに連れてきたのは僕だけど。」

「やはりかこの誘拐魔め。天に変わって成敗してくれるわ。」

 そう言い僕に飛びかかってきた。

「ま、待ってよ。」

「なんじゃ?今更謝るつもりか?遅いわ。」


「そうじゃない。確かに連れてきたのは僕だけど誘拐じゃない。100%僕は悪くないけど行きがかり上ひいちゃったから手当しようと連れてきたんだよ。」

「けっ。そんな話が信じられるか。」。

「包帯巻いてやったじゃないか。覚えてないのか。」

「うーん。そんなことあったかの。」

「あった、あったよ。」

「うーん。確かにそんな気がせんでもないが…。ひゃっ。」

「ん?」

 気づくと神様は顔を赤らめ涙目になっている。

「どうした?」

「お前、昨日私の胸に何度も何度も触ったろ。この変態。」

「は?何言ってんだよ。僕がそんなことするわけ…。あぁそういえば、脈図るために触ったな。」

「この変態、セクハラ親父。」

 神様は僕に罵詈雑言を浴びせ始めた。

「あれは脈を取るために必要だったんだよ。」

「いかなる理由があっても女の胸を触るのはダメに決まってるじゃろが。」

「なにが女だ。お前あの時猫だっただろうが。」

「猫でもレディはレディだ。」

 もう面倒くさくなってきたから話を強引に戻すことにした。

「はいはい。それで、包帯巻いてあげたの思い出した?」

「そんなこと覚えとらん。やはり嘘だろう。」

 そう言い僕の首に手をかけた。いくら相手が女でも神様だし、それに僕はものすごい非力。僕はここで死ぬのかな。あぁ、こんな時徳川家康とか直江兼続だったらいいアイデアをぱっと思いつくんだろうなぁ。

 そんな事を考えてるうちにだんだんと意識が遠のいてきた。

「お前男のくせに力ないな。私はこんな男に虐げられたのか。」

 虐げてねえよ。その一言で意識が戻った。そうだ、こんなやつに殺されてたまるか。必死に体に力を込める。でもびくともしない。

 こいつ、僕より絶対に重いな。そんなことを思いながらこの現状をどうにかしようと手を動かした。

「往生際の悪い。さぁ、どうして欲しい。釜茹でか?串刺しか?生き埋めか?」

ととても楽しそうに言う。こいつ絶対にSだな。そんなことを思いながら手を動かしていると、何かが手に触れた。掴んでるみると、それは柔らかくほんのりと温かかった。

「きゃっ。」

 するとどうだろう。突然神様は僕の上から飛び退いた。こっちを物凄く睨んでいる。それで僕はこの状況を理解した。・・・不可抗力だよね?

 そんな神様を見て僕はあることに気がついた。

「神様の脚に巻いてあるものはなにかな?」

「へ?あれ?なんで?」

「僕が巻いた包帯だよ。これで信じてくれる?」

 これで僕の無実が証明された。

「というわけで早々にお引き取り願いたいんだけど。」

 しかし神様は僕のことなんか無視して包帯を外していた。気になるらしい。

「痛っ。」

 気が付くと神様はガーゼを取っていた。そのせいでだろうか、出血している。

 仕方ないので救急箱を持ってきて止血することにした。

「血止めるから傷口見せて。」

 そう言っても神様は全く動こうとしない。もしやと思い揺さぶってみると崩れ落ちてしまった。あまりの痛さに気絶してしまったようだ。これで神様かよ。そう思ったが手当に専念することにする。猫じゃなく人間なので手当は簡単だ。傷口を水で洗って消毒し、新しいガーゼを当てて包帯を巻いた。そして神様の体を僕の布団に運んで寝かせる。…はずがあまりにも重く運べなかった。

「重すぎるんだよ。」

 仕方なく引きずって布団まで運び掛け布団をかけてやった。神様は気持ち良さそうに寝ている。あんな暴言吐いてもこの神様寝顔だけは可愛いんだな。そんなことを思いながらふと時計に目をやると6時を回ったところだった。

「ヤバい。」

 神様の手当に時間をかけすぎてしまった。慌てて朝食と弁当を作り始める。朝食は僕と神様の二人分だ。作り終わってもまだ起きないので布団の横に早々に出て行くようにと書いてある紙と一緒に置いておく。そして自分の分の朝食を急いでかつぎ込み自転車に飛び乗って学校への道をこぎ始めた。


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