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01 プロローグ
男は駆けていた。
幼少の頃から自らの手で育ててきた愛馬の背に跨り、駆けると過ぎ行くまわりの景色は全て一瞬。しかし、男にはその一瞬すら惜しかった。
愛しくて、愛しくてたまらないひとが目の前で消えたのだ。男をこれほど激昂させたことはないぐらい、それはとても激しい感情だった。
「…っ無事でいてくれ、カルディア…!!」
心の底からの叫びに、怒りと、後悔と、焦燥がにじみに出る。
なぜ、あのとき、伝えなかったのか。
伸ばされた手を取ることは男にも出来たはずなのに。
「……カルディア!!」
ポツリ、と冷たい雨が男の頬を打った。