第91話
実働に至ったのは、会議からさらに1か月が経っていた。共同訓練が行われ、それぞれが協調して行動するためにそれだけの時間がかかったのだ。それまでの間に、ホーンラル公爵は、意外な進撃スピードを見せていた。王都をすでに脅かすところまで兵を進めていたのだ。
王都そばではホーンラル公爵が野営をしていた。翌日、朝に出発し、昼には王都の城壁へとたどり着くことができるほどの近さだ。ここまで来るには数多くの犠牲を払わなければならなかった。しかし何よりも、ホーンラル公爵自身が、今まで思いもしなかったような変化を遂げていた。
野営地では複数回の会議が行われている。それは、ダッケンバル5世をどう処遇するか、という一点にほぼ絞られていた。野営地の中でもひときわ厳重な護衛がされている幕屋では、ホーンラル公爵騎士団の上層部とともにホーンラル公爵が会合を開いていた。
「とうとうここまで参りました」
立席で会合が始まると、最初の一言はホーンラル公爵が発した。その言葉を、周りがしっかりと、一言も漏らさぬように聞き続けている。
「ダッケンバル5世は、王都に閉じこもったままで、出てくる気配はない。そこをこじ開け、民を圧政から解放することは、すでに十分可能となっている。しかしだ、当のダッケンバル5世本人をどうするかを、今の今まで決着していなかった。よって、この会合において最終決定を下したいと思う。騎士団長、どうだ。意見を述べろ」
ホーンラル公爵の裁量で、騎士団長が指名された。
「国王は2名立つことはないでしょう。しかし、僭称し、それ故に複数人となるということは幾度とあったことです。ここで大切なことは、それを公に認めさせることでしょう」
「どういうことだ」
「つまり、ダッケンバル5世は閉じ込め、公爵閣下が自ら戴冠することが大切なのです。そして戴冠式には、国教たるホルリー教の承認が必須となりましょう。これがなければ、誰もが認める国王位となることはできますまい」
「となれば、ダッケンバル5世を閉じ込めるための施設が必要となるではないか。それはどうするのだ」
「それは国王家に伝わっております監獄がございます。そこへと幽閉することとなるでしょう。然るのちに、ダッケンバル5世から王冠を受け継ぐこととなります」
あるいは、奪い去るか。さすがに言葉を選んでいたが、その表現は違えど、ダッケンバル5世でダッケンバル王国が終わることはハッキリとした。
「では、処刑はしないのか。この大混乱のきっかけだぞ。反乱を起こされたらどうするつもりだ」
ホーンラル公爵からの質問に対しては、騎士団長があっさりと答える。
「それについては考えがあります。どうか、お任せ願いませんでしょうか」
「……わかった。反乱がおこるかどうかは別にしても、だ。必ずや此度の戦争には勝たなければららん」
「承知しております」
騎士団長は、キッとした表情をホーンラル公爵に向けて答えていた。