第85話
騎士団の居城までは約1週間かかった。
「昔は子供だけでいけたのに……」
4人の騎士に守られつつ、馬上でランゲルスがつぶやく。ルイスが勇士団員だったころ、王都の祭りにいったときを懐かしく思い出しているのだろう。しかし、その時とは大きく様変わりしてしまった。
道こそ、いまだに石畳で、轍もしっかりと残っているが、野盗は表れ、店は活気を失い、人々は隠れて暮らすようになっていた。あの賑わいは、すでに失われている。
「副団長殿、お待ちしておりました」
団長補佐2名が出迎える。ルイスらは居城の門のすぐ手前で馬を降り、馬を預ける。
「お疲れ様です。ここへ来られる日をずっと待ち望んでおりました」
ルイスは団長補佐のうち、先任と握手をする。
「団長がお待ちです。ご案内いたしますので、お二方ともどうぞこちらへ」
団長補佐が招き入れる。それで、ようやく騎士団の居城である、マウンダイス公爵の城へと入ることができた。ここまで守ってきていた騎士らは、入り口のここで別れることとなった。
まるで迷路のようだ、ルイスはそう思った。右に行ったと思えば左へ、上に行ったと思ったら下へ。本当は迷っていて、それを隠しているだけではないかと思うような案内の仕方だ。
「お待たせいたしました、ここでお待ちください」
団長補佐が二人とも、先に身長の2倍はある大きな扉をくぐっていく。ここまでの間に、簡単な打ち合わせや式次第の説明があったが、どうしろという指示はなかった。
「大丈夫よ、ルイスなら」
そっとランゲルスがルイスの左手を握り、話す。
「ルイスはここまで来れたのだもの。思ってもいなかったような大冒険に。だから、大丈夫」
「……そうだといいんだけど」
珍しいルイスの弱気に、クスリとランゲルスは笑う。
「どうしたんだ」
「いーえ、そういうルイス、珍しいなって」
「どうしても、緊張はするもんだよ。特にこういう時には、な」
「大丈夫よ、大丈夫」
何度も繰り返される大丈夫ということだ。それにルイスはランゲルスが横にいるという安心感もあって、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。心を落ち着かせたころ、扉が内側から開いた。