第82話
「神は、常にあなた方を見守ってくださっております。それのどこが不満というのですか」
――ホルリー伯爵
ルイスがマウンダイス公爵方へと就くことは、ゆっくりであるが知られるようになっていった。あの有名人が就くならば、ということでマウンダイス公爵の傘下には、有象無象が集まるようになった。誰もが、勝馬に乗ろうと考えていることは明白である。そのため、騎士団の増強を行うことを公爵は計画せざるを得なくなった。
「騎士団の人員を増やすのですか」
マウンダイス公爵騎士団長が公爵へと聞き返す。会議は公式の場で、団長、団長補佐、団員代表、一般団員の中で行われている。この中で発言権があるのは団員代表までだ。それでも実際に発言することは少ない。
「そうだ。これから人数も増えることだろう。やむを得ない措置だと考えてる」
「いかほど増やすつもりで」
すでに固まっていると気づいた団長は、公爵へと人数を聞く。
「今の定員は80名、団長1、団長補佐2、団員代表4を含んでこれだ。これを1.5倍にする。団長1、副団長職を新設し、団長補佐2、団員代表7としたい。どうだろう」
「副団長は団長補佐からの昇格という形でしょうか」
「いや、ルイスを充てたい」
それを聞いて、ざわつく者、隣を目を合わせる者、当然といった風にうなづく者。多数の様々な反応があった。団長は、公爵が決めたこととはいえ、少し不満を抱いているようだ。しかし、それ以上に不満に思っている者がいた。
「なぜですか、ぽっと出の敢闘団員なのですよ。団長補佐のどちらかを昇格させるのが筋というものではないでしょうか」
団長補佐のうち、正職と呼ばれる方の、つまり年上の者が声を荒げていう。
「つまりは、力不足であるといいたいのか」
「その通りです」
「今でも温泉街の警備隊長をしている。あのルイス・プロープグナートルだ。幾多の犯罪が起きているあそこを、国一番の治安の良さで知られるように制御している。それでも力不足であるといえるのか」
「それは全体の力から見た場合でしょう。個人の力量はどうなのでしょうか」
「随分と昔の話だが覚えているか。先代の国王の遠縁が起こした反乱を」
それは、ルイスが活躍し、マウンダイス公爵に見初められたあの戦いである。あのおかげで、いまのルイスがいるのは間違いない。そして、今の世界があるのも。
「あの時の最大の功労者は、ルイスその人だ。個人の実力も折り紙付き、協力者も多数いる。その状況で、さらなる証明は不必要であろう。どうだ」
公爵がここまで言いきるのは珍しい。だからルイスに期待をかけているということがひしひしと伝わって来た。そのためだろうか、団長補佐は気持ちを落ち着かせるために、一息深呼吸をした。
「そこまで閣下がおっしゃられるのでしたら、私としましても異存はございません」
「よし、他に意見がなければ、このようにしたい」
公爵は会議に居並ぶ参列者を見た。何か言いたそうにしている者は何人かいるが、意見を言おうという気配はない。
「では、増員することにしよう。団長、すぐに増員計画の原案を作ってくれないか」
「了解しました」
団長はすぐに頭の中で新たに加入した人らの図を描いているようだ。ここから先は、会議をしたところで返事もろくにできないだろう。公爵の判断によって、今日の会議は解散となった。