第81話
ルイスがまだ戦争を知らなかった頃。つまり、農村に住んでいた頃の話。ルイスを筆頭として、ランゲルス、エルラ、シュトール、クリスの5人は、秘密基地と称して、村一番の大きな樫の木の上に基地を作っていた。当時は10歳くらい。今から10年も昔のことだ。そこで彼らは、見張り役だと称して、ずっと遠くを見ていた。
「山の向こうのそのまた向こう。何が待っていることかな」
ルイスがその秘密基地の中で歌を口ずさむ。
「それって、この前きた吟遊詩人の?」
「そうそう。僕も、ずっとずっと未来には、きっとそんな国王様になっているんだろうなぁって。みんなが知っていて、誰もが僕のために道を開けるような、そんな人にね」
立ち上がり両手を広げてさらに歌の続きを口ずさむ。当時みた、ちょっとしたダンスも交えつつ。
そうしているうちに、秘密基地の外枠まで来てしまった。
「おっとっと」
ルイスが踏みとどまったかに見えた。だが、そこの木がダメになっていたらしい。何があったのかが分かるより前に、力強く抜いてしまった床材は、そのままルイスを床から地面へと落とすための装置となった。
「ルイスっ」
4人がその穴へと近寄ったが、すでにルイスは地面へと落ちていた。心配した4人の前で、ルイスは手を振った。痛いだけのようだ。
「大丈夫か」
すぐに4人とも秘密基地から降りてきて、ルイスのところへと駆け寄る。
「いや、大丈夫」
立ち上がってみると、ズボンに血がにじんでいる。ズボンをめくると、どこかで引掛けたのか、10cmくらい直線に赤い筋ができていた。
「ありゃ、これは怒られるかなぁ」
「黙っておくさ。木に登った時じゃなくて、もっと別のこと……」
クリスがすぐに口裏を合わせようとする。
「……森にでも行ったことにしよう。あそこなら、そこまで疑われることはないと思う」
「じゃあ、木の実か何かを採っておかないと」
ランゲルスが提案すると、言い訳の道具として、適当なものを採ることにして、森へと勇んで歩いていった。




