第80話
「それで、ルイスは」
エンディケールは、ルイスへと尋ねる。質問が意図するところは二つある。一つは、ルイスとエンディケールの先輩後輩という関係が壊れることがあるのか。そして、戦場に立った時、殺しあう関係になるのか。
「私は、先ほど確認をしました。私たちはマウンダイス公爵閣下につき、戦乱の世を駆け抜けていくつもりです」
「……そうか」
大きく息を吸い、エンディケールはルイスへと告げる。
「僕は、男爵という地位を承継することとなっている。陛下を裏切ることはできない。どうだろう、翻意してくれないか。今ならば、まだ僕らは戦わなくてもすむ。どうだろう」
エンディケールは落ち着いた口調で、しかし必死さを顔に滲みさせつつルイスを説得しようとする。しかし、ルイスは周りにいる4人に目配せのような視線を送りつつ、エンディケールへと語りかける。
「私が今、ここにいるのは、公爵閣下のおかげなのです。陛下から確かに私は恩を受けました。しかしながらそれ以上に大恩を、公爵閣下から受けました。どうして公爵閣下を裏切ることができましょう。それに、私には優秀な親友がおります。彼らを説得した上で、ならば私は先輩とともに戦えましょう」
「わかった、決意は固いのだな」
「ええ、残念ながら」
エンディケールは、周りにいるルイスの親友らを見回す。そして、懐から書状を取り出した。封印がされていて、それはダッケンバル5世陛下からのものだということがわかる。
「これは」
ルイスは一応恭しく両手でその書状を受け取った。ただ、封印の紋章を見ると、封を開けようとしない。
「詔勅だ。反逆者への、な。今なら間に合うから、戻れっていうことが書かれている。一応届けて欲しいということだったから、ここへやってきて届けたわけだ。だが、返事はいらないな」
「ええ、誠に申し訳ありませんが」
ルイスは手紙を見ることなく、机の上へと置いた。
「ならば仕方ないな」
ため息のような息を吐き、エンディケールは部屋を出ようとする。扉に手をかけて、ルイスを見た。
「次会った時はきっと戦場だろうな」
「ええ、おそらくは」
「だろうな」
エンディケール生きてこうして会うことはないだろう。そう思いつつ双方はここでは何も争いをしなかった。それをしても意味がないことぐらい、互いに知っていた。