第7話
ルイスは、極めてよく戦った。戦いすぎたと評価する者もいる。だが、それは後世の歴史家の話に過ぎない。この時、マウンダイス公爵率いるダッケンバル王国軍は、驚異的なスピードで歩を進めていた。現代の電撃戦と呼ばれる概念の嚆矢である。しかし、そのような言葉がこの時代には無く、ただ恐ろしいスピードによる進軍とだけ書かれていた。
ルイスと呼ばれる鬼人がいるという噂は、敵の内部に浸透していった。そして、向かってくる相手がそのような人がいるのでは、元から勝てるわけがないとして、戦意はガタ落ち。相手は戦わずに負けることとなった。
「しかし、ここまであっさりと来ることができたな」
ルイスが最前線で、シュトールにぼやく。まだまだ戦い足りないといった声だ。
「ルイス自身が噂になってるみたいだから、それで逃げちゃってるんじゃないかな」
シュトールが答える。
今のルイスの格好は、馬には乗っていないが、鎖帷子に頭を覆う鉄板製の兜をつけている。また、鉄でできている剣を受け取っている。ただし、予備として置いてあった分なので、サイズはいまいちあっているとは言えない。だが、弓矢と剣が主流の今の戦いでは、これぐらいでも十分防御はできるであろう。
「じゃあ、今度からは抑え気味でやるか」
仕方ないと言った口調で、つぶやいていると、総員止まれの号令がかかった。
すぐ目の前には堀があり、その向こうに城門がある。どうやら、敵の本拠地、敵国の首都の町にたどり着いたようだ。まずは、騎士道的に呼びかけを行わなければならない。
マウンダイス公爵が先頭に立ち、目の前にある堀の向こう側に呼び掛ける。誰も聞いているようには見えなかったが、声が聞こえたのであろう。衛視のような人物が顔をのぞかせた。
「貴殿は何者であるか!」
向こう側から呼びかけをしてくる。
「我はマインダイス公爵!ダッケンバル王国からの使いである!」
顔は、一旦は引っ込んだが、数分後、再び現れた。
「疾くと去れ!我らの領土は渡さぬ!」
兵士はそれだけ言って、矢を撃ってきた。それは、マインダイス公爵の足元に見事に突き刺さった。
「止むをえまい。ルイス、突撃だ!」
「はっ」
そう言ってルイスは、剣を腰紐から引き抜くと、それを高々と掲げて、全員に聞こえるように叫んだ。
「突撃っ」
堀には水がはっていたため、近くの木を倒してきて、橋の代わりとして向こう岸へと渡す。そして、ルイスを先頭にしてその木の上を一気に渡りきると、城門の木の部分に火を放った。
ごうごうと天を焦がさんばかりに高々と火が立ち上る。そして、数分も経たないうちに、崩れ落ちた。
「突入!」
ルイスは、ここでも先頭を切って、燃えカスを剣でできるだけ斬りおとすと、他の仲間を引き連れて城内へと侵入した。