第77話
ホーンラル公爵が反乱を起こした。このニュースは様々な人の口から口へと伝わっていった。公爵会議の面々は、誰もがどこかでダッケンバル国王と血縁を持っている。例えば、ホーンラル公爵はダッケンバル2世と従弟の関係であった者が初代公爵となっている。また、シュバルタ公爵は、宰相としてその手腕を振るっているが、そもそもはダッケンバル1世が国王となった際、弟であった者が初代公爵となっている。
当然、マウンダイス公爵も例外ではない。マウンダイス公爵位は、ダッケンバル2世の妹が初代と定められている。以後、今に至るまで公爵位は維持されている。そして、公爵として生まれてきたからには、この国が危機である際に選択を迫られることとなる。その時、公爵は、ただ一人の親友に胸の内を打ち明けることになるのだ。
「騎士団長」
公爵領にいた公爵は、邸宅の中庭で一人黙々と訓練に勤しんでいる公爵騎士団長に声をかけた。
「これはこれは公爵閣下」
「少し話したいことがあるのだが、今いいか」
「ええ、もちろん」
少し休憩したかったということもあって、騎士団長はタオルを首に下げ、訓練場から離れた。たくさんの騎士団員が同じように練習をしていたが、その中を抜け、壁際の秘密の密会場にきた。
「ここにきた、ということは……」
「ああ、君も聞いただろう。ホーンラル公爵が陛下に対して反乱を決起した。彼が真っ先に立つとは思いもしなかったがな」
「ホーンラル閣下は、心優しいお方でございますので、後ろで手引きする者が必ずやおりましょう。そう、例えば騎士団長とか」
「だろうな。だが騎士団長に聞きたいのはそれではない。分かっているのだろう」
「ええ、重々に」
「ならば、私はどうすればいいと思う。陛下は、特に前王陛下は、未だに忘れ得ぬご恩がある。それを裏切ったとしてもいいのだろうか」
ホーンラル公爵も、きっと同じことを思っていただろう。しかし、反乱という重大なことを決断した。それはどうしてか。後ろに強大な軍事力としての騎士団があっただけではない。それ以外にも何かあったはずだ。マウンダイス公爵は、それを知りたかった。だが、今直接聞くわけにはいかない。反乱の首魁と会うことは、それだけで国王の不評を買うことだろう。だが、何かあれば、大義があれば、こちらにつく人も現れるだろう。
「全ては契約なのです、閣下」
「契約か」
「今の地位は、現在の陛下と結ばれた契約によりましょう。土地と地位を保証する代わりに、税金と、場合によっては人も、臣下として差し出すように。その前提である土地の保証が今はありません。このまま税を納め続ければ、早暁納めきれなくなるでしょう。そうなれば、土地を出せと言ってくるのは当然のこと。ルイス・プロープグナートルも、重税に苦しめられております。他の者も、助けを求めている者は大勢おります。どうしてこれで悩む必要がありましょうか。相手が前提を崩したからこそ、反故にしたからこそ、我々は対抗せざるを得なかった。そういうこととなりましょう」
騎士団長がいうことは最ものように思えた。最もであるならば、あとは決まっている。
「ルイスは、確か同盟に賛成だったな」
「そのように聞いております。ただ、彼は敢闘団員。国王位を奪取したからには、なんらかの報償が必要となりましょう」
「そうだな、それは考えておく」
まずは、と公爵は続ける。
「国王は、国民の信頼を失った。それが全てだ」
騎士団長は、うっすらとうなづいた。それが、答えだった。