第69話
マウンダイス公爵騎士団附属警備隊というのが支部の正式な名前となった。それから半年ほどたち、班長4人の訓練も無事に完了した。そんなある日のこと。
ランゲルスは、その日も、いつものように役所にいて、帳簿を付けていた。農家の頃覚えた歌を、知らず識らずのうちに口ずさみつつも、全く迷いなくペンを走らせる。複式帳簿は、この世界に導入されたばかりで、作られてからまだ10年とたっていない。だが、それがスタンダードとなりつつあるため、ランゲルスは複式帳簿でつけていた。だが、それが終わる前に、国王の使いと名乗る人物が現れた。
どうもランゲルスもいた方がいいということで、ルイスとともに、ルイスの執務室で応対する。
「実は、徴税金額が、このほど変更となりまして」
「またですか」
思わずランゲルスが使いに呟く。それを聞かなかったことにして、使いはさらに話し続ける。
「この温泉街は、国中に広く知られております。敢闘団員にしておくのはもったいないとも」
「残念だが、買官に興味はございません」
話の流れを察したのか、ルイスがすぐに口を挟む。
「……左様ですか。それでは、この書類を置いておきますゆえ、くれぐれも税を納めないことがありませんように」
「よく分かりました」
ルイスはそう言って、部屋を出るまでお辞儀をする。出て行ってしばらくして、ランゲルスがルイスへと聞いた。
「買官って?」
「官職を金で買うことさ。爵位や職業株なんかも買える」
そもそも買官の制度は、初代国王の時代からあった。初期のうちは、爵位もなにもない金持ちが、国税を納めることによって、その官職を得ることであった。それが王国の基盤を作り、いつのまにか、それが無ければ王国は運営できないようになっていた。爵位を買うことは、爵位領を得ることにつながり、職業株を買うことは、その職業につくことを意味している。ただし、職業株は国王が指定する職業に限られていた。例えば、製鉄、鋳鉄、両替商、馬匹などだ。軍に必要だったり、国家の根幹に関わるような職業について、職業株が指定されていることが多い。多くは親から子へと相続されていくが、子がいないなどの理由で相続できない場合がある。このような時に、売買されるのだ。
「それでも買う人っているんだね」
「利権になるからな。うまくいけば、王族と縁続きになることだって夢じゃない。それに名誉にもなるからな」
ルイスは、なにやら苦々しげに話していた。




