第67話
邸宅の中庭は、広場のようになっており、そこで騎士団員の練兵を行っている。複数人が班になり、それぞれで練兵をしているところだった。その中で、班の塊の中をうろうろとしている男が一人いる。あちこちにいっては何やらアドバイスをしているようだ。弓、剣、それに槍についての練兵だが、その全てを危うさのかけらもなく演武をみせている。その男こそ、騎士団団長である。
「ケルトン」
その人物が藁人形への突撃の練習をしている班から離れた瞬間、公爵が話す。公爵に気付いた者は敬礼をしているが、すぐに公爵が周りにいう。
「よいよい、そのまま続けてくれ」
「いかがしましたか」
「少し、来てくれ」
練習を始める周りに対して、ゆっくりと中庭の隅へと動く。リンゴの木が北東の隅には植えられており、その木陰は後ろ2方が壁で、残りもはっきりと視認することができない場所になっていた。ここは、逢引きも幾度となく行われているところではあるが、こうやって秘密の会合を開くのもうってつけの場所である。
「ルイスを覚えているか」
「はい、戴冠式の日に会った敢闘団員でしたね。それがどうかしましたか」
「そのルイスからとある手紙が来た。読んでくれ」
手紙を懐から取り出すと、ケルトンに渡す。ケルトンはすぐに受け取ってざっと目を通した。読み終わるとすぐにたたんで公爵へと返す。
「あの温泉街に支部を置く。そうお考えですか」
「そうだ。まず手始めにルイスの幼馴染である4人のうち、男2人を部下にしてほしい。彼らも鍛えればそれなりの戦力にはなるだろう」
「それだけではありませんね」
「……さすがに分かっていたか」
さすが幼馴染と公爵は喜んだ。
「あの温泉街は、今や金のなる木、いや金のなるお湯か。そこの警備を任されるとすれば、その領域について自由にできるも同然。ルイスが矢面に立ってくれるのであれば、あのあたり一帯に似たようなものがないかどうか。さらには他の金になりそうなものも探すことができるだろう」
「なるほど。それを元手にして……」
「しっ」
ケルトンの口を公爵は手で覆った。誰かが通ったわけではないが、これ以上話をするのは危険ということだ。
「ともかく、支部を作ることに協力をしてくれ」
「わかりました。では、そのための練兵を……」
「いや、できるだけ安く上げたい。どうせあそこは有名になり過ぎていて、少々強盗が出る程度だ。我々が直接行くのではなく、できるだけ、現地で用が足りるようにしたい。たしか陛下がお定め人らられた規則でも、支部長はいずれかの爵位を有する者で、その部下は極力現地に居住する者とするという規定があったはずだ」
「では、その方向で調整します」
「よろしく頼む。では、返信を書かねばならないのでな」
公爵は、そう言って会合を切り上げた。