第66話
「旦那様」
ノックを3回してから執事がマウンダイス公爵へと手紙を持ってきた。ルイスが発送してから2週間。まずまず標準的な早さといえるだろう。お盆のような丸いトレーに載せて手紙がやってくる。トレーに載せられたまま、仕事している手を止めずにちらりと見た。そして、その封印に使われている蜜蝋の紋章を確認して、敢闘団員であることを確認すると、今している仕事を優先して手紙については後回しにしようとした。
「誰からだ」
公爵は、執事へと尋ねる。とりあえず誰からかは知りたかったからだ。もしかしたら、重要な手紙かもしれない。その思いから一応聞くことにした。
「ルイス敢闘団員様からです」
その名前で手を止める。仕事はどうやら中座するようだ。今している、新国王即位に関する仕事よりも、ルイスからの手紙を優先することになるが、それで公爵は構わないと考えた。
「そうか」
「如何致しますか」
「少し読ませてもらおう」
ありがとうと言い、トレーから手紙を受け取った。封筒の表書きには定型文である言葉が書かれている。裏、つまり封印されている面には、その右下に『貴方の有能な部下の一人』の文言とともに、ルイスの本名が書かれていた。これも、目上の人に対する定型文であり、とくに目を引くものではない。
ここまで確認してから、公爵は仕事机の右手にある3段の引き出しの一番上からペーパーナイフを取り出した。そのナイフを使い、封印を剥がすと中身の便箋に目を通し始める。封印の具合から、誰も中身を確認していないことはわかった。あとは内容だけだ。
じっくり5分ほどかけて、公爵は手紙を隅々まで見る。そしてジッと公爵のそばに立ち続けている執事に尋ねた。
「今、ケルトンはどこにいる」
「騎士団長殿でありましたら、中庭で訓練をしておられることでしょう」
「ふむ、ならばこちらから向かうことにしよう」
ついでに仕事は休憩だと公爵はつぶやいた。




