第60話
「君も、敢闘団に入ることになったのか」
会館が面している広場の一角、今日は非常ににぎわっているオープンテラスの喫茶店だ。普段の倍以上の人が利用しているようで、どうにかルイスたちは席を確保することができた。
「はい」
周りはとても輝いているように見える。それもこれも、新たな王の即位のためだ。戴冠式のため、天が喜んでいるかのように空が青く感じる。その下で、ルイスはエンディケールに相談をしている。
「まあ、君の活躍からみても、当然のことだろうな」
コーヒーを一杯、ブラックの砂糖なしでエンディケールは飲む。エスプレッソではない、アメリカンだったものだったが、濃縮されて、元のブラックコーヒーに似たような味わいがする。
「そうでしょうか。私のような者、まだまだ諸先輩には……」
「勇士になって以来、史上最多の納税を行い、ある谷を一大観光地、湯治場へと変貌させたというのにかい」
「それでも、です」
「それでは、君は敢闘団員になるつもりはない、ということなのかな」
「いえ、それは……」
ルイスは言いよどむ。敢闘団員になるというのは、ある意味で夢のようなことだ。なにせ、勇士団員で終わるという人も数多くいる。さらに、敢闘団に入るというのは、爵位持ちの子弟というのが多い。
「君の後ろには、公爵がいる。それは分かっているだろ?」
「はい、閣下には常々お世話になっておりますので」
当然、この会話でいうところの『公爵』は、マウンダイス公爵のことである。公爵会議の中でも、一二を争うほどの実力者だ。そのような人の話ならば、断ることはできない。
「……そもそも、私に断る、という選択肢は残されていませんね」
「その通りだ。もしも、それを覆したいというのであれば、君自身がそれを覆せる地位につかないといけない。矛盾しているようだがね」
つまりは、国の頂点、あるいはその側近中の側近になることだ。それが必要だと、エンディケールは話している。それを分かりつつも、ルイスはその点について何も言うことはなかった。
それは、すなわち、国王への反逆を意味しているからだ。




