第5話
ルイスが次々と倒していくのを見てか、敵は徐々におされだした。
「おうっ!」
ルイスの一振りで、敵は首を切られ、腕を刻まれ、地に倒れていった。必要なのは、力と勇気と思いきりである。ルイスは、そのすべてを兼ね備えていた。
その勢いを見てか、ルイスの周りが徐々に人が少なくなってきた。後に鬼神と評されるルイスの初陣である。
「矢を射かけよ!」
ルイスの周りに人がいないということは、すなわち、遮蔽物が少なくなるということだ。それゆえ、すきを突いて、敵の司令官は命じた。特にルイスめがけて、ヒョウと矢が飛んでくる。
だが、不思議とルイスには当たる矢はなかった。ルイスに当りそうな矢は、知らぬ間にあさっての方向へと飛んで行く。まさに、神がルイスを守っているかのようにも思えるほどだ。
「何をしている、俺はここだぞ!」
その時、ルイスは叫んでいた。そして、笑っていた。怖くて笑っているのではない、楽しくて笑っているのだ。戦争が、戦いが、殺し合いが楽しいのだ。闘争本能をかきたて、血沸き肉踊るこの争いが楽しいのだ。それゆえに、ルイスは笑っている。
だが、楽しみは、すぐに終りを迎える。遠くから、楽団の音が聞こえてきた。
「撤退だ!」
すぐに敵指揮官が命令を出す。その声が聴こえることはなかったが、敵の陣地へとどっと雪崩れ込むきっかけとなった。それは、敵も味方も関係なく、ルイス側から見れば敵の陣地、敵から見れば味方の陣地へと、いっきに人がなだれ込んだ。
「司令官は、どこだ!」
すでに声も枯れ、何人の敵を切り倒したかわからないほどになっていた。最初は一緒にいたルイスの幼なじみたちも、どこにいるのかわからない。生きているか、死んでいるかもわからない。だが、ルイスはそのことを考えなかった。考えたのはただひとつ、この戦闘を終わらせるために、敵の司令官の首を掻き切ること、それだけだった。
司令官は、すぐに見つかった。一人騎馬で移動しようとしていたが、兵士たちにもまれ、馬の上で踊らざるをえない状況になっていたからだ。だから、遠くからでもよく見えた。
「そこだなっ」
襲いかかる兵士はすでにいない。ルイスは一人で、恐ろしい形相をしつつも、司令官に向かって突き進んでいた。たまにくる敵兵は、問答無用で切り捨て、襲いかからない兵については見逃した。
そして、ついに、司令官の元へとたどり着いた。
「覚悟っ」
「た、助けてくれぇ」
情けない声を出しながら、司令官は馬上から引きずり降ろされた。そして、ルイスの一刀のもと、首が宙を飛んだ。天高く、その首は飛び跳ねた。
「首、取ったぞ!」
司令官の首に深々と剣を突き立て、それを目立つように右手で誰にも見えるように掲げる。それを見て、敵方は恐慌状態となり、もはや収集がつかないところまできた。
そこへ、マウンダイス公爵率いる騎士団兵がやってきて、方方へと敵兵を散らした。
敵兵がいなくなった敵の陣営で、生き残った者たちを集めた上で、その全員の前でマウンダイス公爵はルイスを見つけて近寄った。
「おぬしか、敵司令の首を討ち取ったという者は」
「そうです」
声をかけられたから、ルイスはマウンダイス公爵の前へと歩み出る。
「うむ、褒美をやろう」
「いえ、褒美はいりませぬ。ただ、この戦争に参加させていただきたい」
「ふむ、ならばお主を公爵による権限によって、ここに勇士見習いとし、隊長に任命しよう。これで、最前線でお主は戦える」
「ありがたいです」
一応の礼として、ルイスは軽く頭を下げた。