第45話
勝訴から1年、さらにルイスとランゲルスが結婚してから半年が過ぎた。今や、世界に知らぬものはない温泉街となった。ここを治めている勇士団員の名を取り、いつしかルイスという地名になっていた。すでに一国の年収にも匹敵するほどを稼いでいるルイスたちであったが、その姿は質素であった。ルイスは、未だ勇士のままであるし、他の面々は、騎士団や貴族に列せられていない。それをわかっているからこその質素さである。ただ、町役場は分所を設け、巨大な館となりつつあった。金蔵には、金貨銀貨などが山と積まれている。それを狙って、盗賊が度々やってくるようにもなった。
「そろそろ、巡回員を雇ってもいいかもな」
経営会議と称して、週に1回集まっているルイスたちは、そこで、これからの話をするのだ。ルイスのそんな言葉に、まず反応したのはランゲルスだ。彼女はこの1年間で経営に関する勉強を行い、簿記の技術を身につけていた。ここまで温泉街が発展したのも、ランゲルスのおかげだと言っても過言ではないだろう。
「金庫の見張り番では足りないと?」
「強盗に入られるよりかは、先んじて手を打った方が、まだ幾分かはましっていうことだよ」
「なら、その分を入れてみて計算をしてみるわね。多分、今の状態だと20人ぐらいが雇い入れる上限ね」
「よろしく頼む」
ルイスがランゲルスに答えると、大慌てで誰かが会議室兼執務室に走りこんできた。息を整える間もなく、大慌てで彼は話す。服装から、この町役場の受付の男であるということはすぐにわかる。問題は、なぜ、ここまで急いでいるかということだ。
「どうした」
会議を一時中断し、受付が飛び込んできた理由を尋ねる。二の句を継ぐ前に、その後ろから、一回り大きな男が現れた。ルイスの先輩であるエンディケール・ブニークトである。
「陛下が落馬されたとの知らせだ。真偽を確かめるため、王都へ向かう途中、ここに立ち寄った。だれか、名代でも構わないから一緒に来てもらえないだろうか」
「それは本当なのですか」
ルイスが食いつく。ブニークトは肩をすくめ、さらに話を続ける。
「言った通りだ。真偽はわからない。だが、全国にこの噂が広まっているのは事実だ。どこまでが真実かは知らないが、それを確かめてみる必要があるだろうな」
「私は公式の伝令がくるのを待つことにします。確か、規則では、崩御ののちに、伝令が騎士団と貴族全員に伝えることになってましたよね」
「そうだ」
ルイスがブニークトに尋ねる。すぐに答えてもらい、それからルイスは言った。
「フリルオ、すまないけれども代わりに行ってくれないか。俺の名代として、先輩と一緒に行ってくれ。書類はこれから用意する。馬も用意しよう。先輩はその準備がかかるので、一晩泊まっていただけますか。無論、宿はこちらで手配します」
「そうか、ここの温泉街は、世界にその名が響いているからな。一度入ってみたかったんだ」
警備についての話は後回しにされ、速やかに出立の準備が整った。翌日、フリルオとブニークトは連れ立って早馬で王都へと向かった。




