第44話
勇士団領へと帰還すると、さっそく町役場にある執務室で、留守居をしていたランゲルス、エルラ、シュトールの3人に勝訴の報告をした。それに合わせて、パーティーが開かれた。
そのパーティーの中、ルイスは、町役場の1階から、ふらふらと外へと歩いて出た。それについて来たのは、ランゲルスだけだ。彼女は、外へと歩いていくルイスを見つけ、再び部屋へと戻そうと考えたのだ。
「ルイス……」
町役場は、周囲から数段ぶん高くなっている。そのため、階段があった。その段の一番下に、ルイスは腰掛けていた。何をするわけでもない。ただ、ぼんやりと空を眺めてた。
街は明るく、ことさら今日は眩しい。それはルイスはお酒を飲んでいたということも関係していたが、それよりも勝訴記念のパーティーという理由もあるだろう。
「はは、おかげで星は見えないや」
ルイスが、ランゲルスに気づいているのかどうなのか。ランゲルスはわからなかった。だが、ルイスの言葉がランゲルス自身へ向けられていると解釈した。だから、ランゲルスは、ルイスの横にそっと腰掛ける。もはや、手を数センチ伸ばせば、手が届くような距離だ。互いの体温を、冷えゆく夜の中の温源として感じあっている。
「対数年前までは考えもしなかった。俺がこうしてここにいるなんてな」
「それは、私もそうよ」
「だよなー……」
途切れる会話。ランゲルスはその空白を埋めようとして、さらに声帯を震わせる。
「ねぇ。もしも。もしもだよ。あのまま農村にいたら、どうなってたかな」
「そうだなぁ」
ルイスは、若干考えてから言葉を放つ。
「誰かと結婚して、子供を産んでもらって。で、おじいさん、おばあさんになって。ああ、幸せだったなぁって死んでいくと思う」
「その結婚相手って、その……」
ランゲルスが何かもごもごという。ルイスは、ランゲルスに次のセリフをねだった。
「ん?」
「相手、私じゃだめですか」
言ってルイスが答える前に、町役場から他の3人が現れる。
「おーう、ルイスにランゲルスじゃないか。どうしたんだ」
クリスは半分ろれつが回っていない。そして、エルラとシュトールは、二人揃って、酔っ払っている。
「お前ら、酒はほどほどにしておけよ。あとが大変なんだからな」
ルイスがまだ起きている状態の2人に話す。おそらくクリスに今話しても、何を言っているかわからない音の羅列が帰ってくるだけだ。
「私、先に戻るね」
ランゲルスが戻ろうとして立ち上がると、ルイスはその服の裾をつかむ。ビクッとするランゲルスに、ルイスが話す。
「さっきの言葉、本心か」
「当然」
「なら、俺も本心で答えよう」
ルイスがランゲルスの横で立ち上がると、突然3人が見ている前でキスをする。
「俺は君と結婚したい。しきたりとかいろいろあるんだろうけど、大変だけど、それでもいいのであれば」
キョトンとするランゲルス。はやし立てる3人。顔を真っ赤にしているルイスは、きっと酒のせいではないだろう。
「はいっ」
今度はランゲルスから、キスを返した。
こうしてお二人の婚約記念パーティーやら、勝訴記念パーティーやらは、ごちゃごちゃになりながら三日三晩続いたという。後片付けは、さらに1日掛かりだったそうな。




