第43話
国王は、一人一人をじっと見るように、全体を見回した。
「では、裁定を言い渡す」
ゆっくり、じっくりと焦らすように、国王が一言一言を話す。聞き間違いがないようにという配慮とともに、国王自身が、これで正しいのかということを確認するかのようだ。
「勇士団員であるルイス・プロープグナートル、君の勝訴とする。国王は無謬であり、その存在は確認するまでもなく、常に正しい。これは前提である。その前提に立って、考えよう。
一つ、境界線の侵犯は、別に定めがある通り、争いがある温泉の源泉を含め、あの谷及び近隣の付属地となっている。この近隣の付属地には、すでに追われた山賊が支配していた一帯をすべて含む。これらのことにより、すでに定められた領域の内部においてとどまっているため、その領域を侵すということはありえない。これにより、ルイスがカラ・リンド男爵の領域を侵すという事実は存在しない。ゆえに、これについては退ける。
一つ、公共利用権の侵害。今回の争点である源泉は、通常であれば公共利用に供されるべき存在である。しかし、今回の事案では、ルイスが自らの意志により、自らの領域の内部で利用しているに過ぎない。また、カラ・リンド男爵による計画は、提出されたことはなく、一方でルイスの計画はその部分はあらかじめ私の了承を得ている。そのため、あるかどうかあやふやなものに対して、すでに一定の時期には固まっていたものを優先するのは当然のことであろう。ゆえに、公共利用権には当たらず、公共利用権の侵害は発生しない。
一つ、資材の浪費。今回の資材の浪費の論拠としていたのは、公共利用権の侵害である。すでに公共利用権の侵害はなかったとしたので、資材の浪費については、発生することはない。
以上3点。これらはすべてルイスが正しいということを論証している。ゆえに、今回採決に至った。以上である。なお、今回の裁定は、今後のこともあるため、これにて確定とする」
それが裁定文の全てであるようだ。これらを言い終わると同時に、国王は立ち上がる。全員が立ち上がったのを見てから、国王がさらに続けていった。
「以上、このたびの、ルイス・プロープグナートル勇士並びにカラ・リンド男爵の争いについては、ルイスの勝訴とする」
これで全て終わったようだ。にこりしながらと国王がルイスに言う。
「おめでとう、ルイス君。君の温泉街は、とても有名だからね。守れてよかった」
「ありがとうございます」
腰を90度にまげて、ルイスは国王に礼を述べる。すぐ横でクリスもルイスのまねをして、礼を述べた。それからルイスは公爵へも同様に礼を言う。
「はっはっはっ」
公爵は笑っていた。
「さて、帰るとするか。採決に参加するのは久々だったから、なかなか楽しめたよ」
「はい、ありがとうございました」
再び礼を公爵へと述べると、国王と公爵は肩を並べて部屋から出た。そして、よかったとホッとしているルイスに、男爵が話しかける。
「陛下の採決は絶対だ。だから、今回は身を引こう」
「今回は、勉強になりました。ありがとうございます」
「そうか、それならよい。ただ、あの温泉地は保養所として最適だ。何かあれば、相談には乗ろう」
相談料はいただくがな、と男爵が話し、ルイスより先に部屋から出ていく。
「さあ、俺らも帰ろう。みんな結果をそわそわして待っているだろうからな」
「おう、ルイス」
クリスが答え、領民らも一緒にうなづく。
そして、部屋には誰もいなくなった。