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我が帝国は、成れり。  作者: 尚文産商堂
第2章「領地争い」
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第42話

「疲れたか」

 国王が部屋から出ていき、ふぅーと細く長く息を吐いているルイスを見て、公爵が尋ねる。ビクッとしたものの、すぐにルイスはいつもの顔つきへと戻った。

「ええ、初めてなので……」

「誰にでも、初めて訪れる機会というのは存在する。必要なのは、そこに立ち向かう勇気と、自らの経験と照らし合わせる知識、そしてそれを乗り越えようと思う気持ちだ。この3つがあれば、世界を渡り歩いていくことはできるだろう」

「勇気と、知識と、気持ち。の3つですか」

 ルイスは、公爵にこたえる。そうだと言わんばかりに、公爵は大きくうなづいて見せた。周りでは、クリスが随行員たちと仲良く話し込んでいた。何の話をしているかは、ルイスには聞こえてこなかったが。

 机の向こう側では、今後の次善策を話し合っているようだ。国王がどのように出ても、再び権益を取りに来ようとするのは間違いないだろう。だが、今回の裁定しだいでは、それもできなくなる。

「その3つは、ルイスの今後の人生に大きくかかわるだろう。人生はこの3つで成り立っていると、俺自身は思っている」

 公爵がルイスに言う。

「今回の裁定は、債務名義、つまり今後採決を求めることがあった場合、今回の裁定によって決定された時効が適用される、ということだ。先ほどの弁論で言っていた、第2代採決てのは、2代目国王の時に行われた採決を引用しているということ。以前の採決が以後の採決を縛ることになるわけだ。法的安定性てのは、こうして担保されるという形になっている」

 ルイスは知らないことだらけで、そのすべてを覚えようとしていた。一つ一つしっかりと聞いて、うんうんとうなづいている。それに気を良くしたのか、公爵がルイスに告げた。

「…そうだ、一つ聞いてもいいか」

「なんでしょうか」

「ルイスは、俺の部下となる気はないか。お前はまだ19歳だっただろ」

「はい、確かに19ですが……」

 年齢がどうのというのは単なる話の流れで聞いているに過ぎない。公爵が本当に聞きたい言葉は、ルイスにだってもうわかっていた。しかし、それを言うのはいまではない。それは二人ともわかっていた。

 部下に入る、ということは公爵の下について、公爵とともに浮き沈みを体験することになる。今のルイスでは、そこまでの覚悟はなかった。今は与えられた任務である、勇士団領を守るということだけで精いっぱいだからだ。

「そういえばいくつかお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

「ん、なんだ」

 別の話を考えていた公爵であったが、唐突なルイスからの質問に答える。わずかにルイスの左後ろを見ているような格好である公爵は、微笑みを浮かべているように見える。

「なぜ閣下は、私を助けようと。それに勇士団長はいずこにおられるのでしょうか」

「ハハハ」

 突然、公爵は笑い出した。それを驚くようにして、クリスたちや男爵らがこちらを向く。

「まずは、勇士団長について話そう。結論から言えば、勇士団長なる人物や役職は存在しない。しいて言うのであれば、陛下が勇士団長になろうな。これは勇士団、敢闘団は陛下のものであるということからきている。戦時となり、勇士や敢闘が戦場へ赴いたとき、臨時に指揮を執るものが必要な場合がある。この場合、勇士や敢闘の中から団長となるべきものを選んだり、男爵や準爵、子爵が団長となったりする。戦闘単位で言えば、隊、班のどちらかのレベルになるだろう。これでいいかな」

「はい、ありがとうございます」

 ルイスはまず一つの疑問が分かってほっとした。勇士であるルイスの弁護に、勇士団の長がこないのを不思議に考えていたのだ。

「もう一つの方、俺が君を助けようとしている理由をこたえよう。前にも言ったと思うが、これが面白いと思ったからだよ。面白いときに動かないで、いつ動くというのだ」

 腕を大きく広げて、何かアピールをしている。それが、公爵がルイスに肩入れしている表向きの理由だ。そして、これ以上話すことはない、ということを、ルイスに示していた。


 15分の休憩の中で、不穏な話題というのはせいぜいこの話ぐらいで、後は単なる雑談であったり、ミニ講義のような話ばかりであった。そして、ついにその時が訪れた。

 侍従長が部屋へと入ると、すぐに全員に告げる。

「国王陛下が採決を下されます。着席を、お願いします」

 それを聞くや、素早く自らの椅子に、全員が座った。それを確かめてから、侍従長は部屋を出て、わずかな時間の後に、国王自身が現れた。

 国王入室と同時に、全員が起立する。その物音一つしない世界、ただ一人の発音源である国王は椅子に掛ける。それから全員に向かって告げた。

「座りなさい」

 それを聞いて、再び全員が座った。これから採決が下される。そう思うと、男爵も、ルイスも、緊張せずにはいられなかった。

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