第37話
ルイスたちはさらに1週間かけ、期限の前日にようやく首都へとたどり着いた。首都では、一行は指定された宿泊施設で泊ることになっていた。これは国王からの命令に従ってのことだ。また、今回の訴訟の裁決については、王宮内にある広間の一つが使われることになっている。
「ふぅ」
告訴状を読み返してもなお、トレインが考えた以上の案は出てこなかった。気晴らしに散歩に行こうと思い、ルイスはクリスを引き連れて外へと出た。
市場や商店を覗きつつ、うろうろしていると、声をかけられる。
「ルイスではないか」
ルイスが声に反応して、左前にある商店の中へと入る。するとそこには、全く場違いなマウンダイス公爵がいた。
「公爵閣下」
すぐにルイスは敬礼を行う。それを見習ってクリスも公爵へと敬礼をする。公爵が答礼をして、手を下ろしてから、ルイスたちも手を下ろした。
「閣下、どうして市場に」
「ここの野菜を食べたことがあるか?」
「いえ、申し訳ありませんが」
「食ってみろ。一つ、なんでもいいぞ。おごってやろう」
「それではありがたく……」
ルイスが公爵に言われるままに、近くにあったセロリのような野菜を掴んで食べる。
「甘いっ」
「そう。ここの商店は、私のところに納入をしてくれている業者の一つでね。代々ここから納入しているんだ」
「なるほど。納得できます」
「それよりも、だ。君らはどうしてここにいるんだい。特にルイス君。君は勇士だから訓練時以外はここに来ることはないはずなんだがね。温泉街も順調なんだろ」
「はい、おかげさまで順調に成長しています。わたくし達の想定を超えるほどです。そのせいか、隣の領土の男爵閣下から訴えられ、その裁決のために国王陛下に謁見するのです」
「ほう。なるほどね」
公爵は何か考えている。おもむろに懐から財布を取り出し、店主に10ターラーを支払った。
「釣りはいらないよ。面白いことを思いついた。その裁決、私も君ら方についていこう」
「閣下、それはよろしいのでしょうか」
「当然。陛下も認めて下さるだろう。裁決はいつだ」
「明日です」
「場所は」
「“鳥の広間”です」
「時間は」
「10時に国王陛下が御成りになられます。それまでには着いていないと」
「よし分かった。明日の朝の10時に王宮の鳥の広間だな。それでは現地で会おう」
「ありがとうございます」
そうお礼を言うルイスに対して、豪快に笑いつつ公爵は店を出た。ルイスはついでと言わんばかりに紅いトマトを5つ買い、公爵は何をするつもりなのかと考えつつ、クリスと宿泊所へと戻った。