第29話
ルイスが勇士団領に到着してから1ヶ月、唐突に彼らは訪れた。ちょうど、薪用の木材を家の裏手で作っている最中のことだった。ランゲルスとエルラの2人は、集落へ食料を調達しに家から離れており、中ではシュトールとクリスが今後の谷の計画を練っているところだった。
「よお」
なれなれしく声をかけてくるのは、身なりが汚く、ひどい臭いがしている男たちだった。3人でやってきた彼らは、自身を管理人と名乗り、この土地を管理しているといってきた。つまりは、無許可でこのあたりを占領しているといえるだろう。彼らこそが、話に昇っていた山賊の一味であった。
「何のようだ」
ルイスは、薪用に持っていた斧の柄を短く持ちかえ、すぐに彼らに攻撃できる態勢を取りつつも、相手に言葉を投げる。
「おいおい、こっちはあんたになにか危害を加えようとしているわけじゃないんだ」
「なら、とっとと帰りな」
ルイスはそう言い放ち、再び薪を割ろうと斧の柄を長く持ち、割ろうとしている木を台座にセットした。それを見ながらも、なお山賊は話をやめようとせず、帰る気配は微塵もない。
「いやあ、ここに勇士団員様が来るとは思ってなかったのさ。それでさ……」
「金の類ならやらんぞ」
それから先を山賊が続けるよりも前に、ルイスが言い放つ。パカンと音を立て、薪は見事に3つに割れた。そこへ、家の中からシュトールとクリスが、ルイスと話し声を聞きつけて、家の中から出てきた。
「どうしたんだ」
クリスが割った薪を横に山のように積んでいるルイスへと話しかける。すぐに視界には山賊3人が入っているが、彼らを無視する形だ。
「山賊だよ」
斧の刃を向け、ルイスは二人に教える。
「管理人ですよ。むしろ、管理料をもらいたいところです」
「それが狙いか」
ルイスが言ったとおり、山賊たちの狙いは金だった。勇士団の代わりに、今までこの土地を管理してきたのだから、その分の管理料をもらいたいというのが、彼らの言い分である。しかし、ルイスはその要求を断固として断った。何分か押し問答は続いたが、最後にはあきらめたようで、山賊は帰っていった。
そのことをルイスが、晩御飯のときにランゲルスとエルラに伝えると、なにやら思いついたようだ。
「それ、使えるかもよ」
いたずらっ子のように、エルラがその考えをみんなに伝えた。
「いけるかもな」
ルイスがそういうと、その作戦はすぐに実行に移されることとなった。山賊をのかさなければ、この谷が落ち着くことはなく、そうなれば集落の人たちも大変だろうと考えたルイスの思いがあった。現に、税金だという名目で、山賊が集落を襲うということがたびたび起こっているという話を、ランゲルスが話してくれたことからも、ルイスはすぐに動く必要があるということを痛感したようだ。