第2話
それから半時後。村の全員が村長の命令によって、村の広場に集められた。
「国王陛下からのお達しである!」
叫んでいるのは、先ほど見た行列の中で、騎馬していた唯一の男である。どうやら彼がこの隊列の長のようだ。鎖帷子を着て、木製ではあるが盾も持っている。
巻物のように巻かれている紙をくるくると解き、そこに書かれているであろう文言を叫びながらも読み上げる。
「村にいる、健康な13歳以上35歳以下の男女は、全員、兵として召集する。以上だ!」
瞬間、村の誰もが、ブーイングを発する。
「黙れ!」
再び隊長が叫び、右腕をあげると、それが合図となった。連れ添っていた隊列の全員が、槍や刀をめいめいに構えているのが、はっきりと見える。それも、村民に対して、明らかに闘志をむき出しにしていた。隊長が命ずれば、すぐさま皆殺しになるであろう。
「……国王陛下の命であれば、我々は従いましょう」
村長が隊長へと静かに言うと、隊長はゆっくりと手を下ろす。それによって、隊列の面々は、槍や刀を納めた。
「よろしい。ここにいるのが全員であるか」
「はい、村人全員です」
「ならば、このまま、13歳以上35歳以下の男女は前へ」
呼ばれて、ルイスたちも前へと出る。
「では、行くぞ」
周りには兵たちに固められて逃げることはできない。ルイスたちは、両親に何も言うことができないまま、隊長によって連れ去られた。
一行は、村から遠く離れた地へと、2日かけて歩いてきた。ルイスたちは、ここまでくるのは初めてのことであった。
「とまれ!」
隊長が叫ぶ。全体がゆっくりととまっていく。
「ここで、訓練を受けてもらう。訓練といっても、簡単なものだ。それから、我々の指揮の下、出撃してもらう」
隊長がそれから下馬して、とあるところへと連れて行く。そこは、訓練所の中で、一番大きな幕屋であった。
「訓練長。つれてきました」
「ご苦労。下がってよい」
胸には燦然と輝く金色の勲章。それも3つもぶら下がっている。上衣が濃い青色、ズボンには薄水色を使っていて、従兵が盾と刀を持っていた。そして、その盾には、黒い薔薇の紋章が描かれていた。
「君たちが、徴集兵だな。ここでは、簡単な訓練をしてもらうことになる。私は、ホーンラル公爵。訓練長と呼ばれている。マウンダイスからさっさと兵を送ってこいとせっつかれているから、急いで教える必要があるな……」
若干、考え込んでいるホーンラル公爵であったが、すぐさま従兵を使いに出して、訓練場をあけるように頼んだ。
3分とかからず従兵は戻ってきて、準備が整ったことをホーンラル公爵に伝える。
「よろしい。では、すぐに徴集兵を訓練場へ」
「はっ」
敬礼して従兵が答える。すぐに、従兵が動き出し、徴集兵の一行は動き出した。
訓練場は歩いても1分とちょっとぐらいしか、かからないところにあった。そこで、皮を何層か重ねてでできた鎧と、どうにか鉄でできている刀をルイスたちは受け取った。盾はない。身を守るものは、元から来ている服と、皮の鎧だけだ。
「では、貴様らには歩兵を務めてもらう。まずは、一対一になれ」
訓練場にいた訓練士が徴集兵に命じる。ルイスたちは、近くにいた人らと、適当に組になった。
「あとは、適当にきりつけろ。実戦では相手は殺す気でやってきている。だから、よけようとか考えず、敵の首筋か、手首を狙え。そこが弱いからな」
訓練士が言いながら、組の間を通って、それぞれに効率的な攻撃方法を教える。
訓練は、たんに剣の斬りあいだけを教えて、あっという間に実戦となった。つまりは、ホーンラル公爵は、マウンダイス公爵の意に沿って、徴集兵を戦場へと送り込んだのである。