第28話
それから半月後、近所にある数世帯が住んでいる集落から木材をいくつかもらい、掘立小屋を建てていた。ルイスを長として、この谷をどうしようかという話し合いが5人で続けられていた。鍛錬を欠かさずに続けているおかげもあり、ルイスはがっしりとした筋肉質な体格になっている。他の面々も、この谷やそれ附属する周囲を歩き回って観察をしているおかげか、足腰が丈夫になっているようだ。
掘立小屋も、3部屋ある大きなつくりになっている。1部屋目は玄関兼台所、2部屋目は応接間兼客室、3部屋目は5人での共同部屋だ。これ以外にも、外を流れている湯気が立っている河や、トイレなどがある。これらの部屋の間取りは、基本的に勇士団としての規則にのっとっている。外の川については、風呂として使う予定だ。そのための小屋も別に立ててある。掘立小屋というよりか、立派な家と言ってもいいような出来だ。
「それで、当面の課題というのは、この谷に陣取る山賊か……」
ルイスが、共同部屋の中心に置かれたテーブルの上の地図を見ながら言う。テーブルは、寝るときには持ち運べるように、固定されていなかった。ただ、ずっしりと重量があるため、ちょっとやそっとでは動くことはない。地図は、近所の集落からの情報と、シュトールとクリスが歩いて集めたものだ。おかげで、山賊の住処も、この周囲の地形も、しっかりと地図におとし込まれている。
地図によれば、この谷は、基点となる山頂までおおよそ30kmほどの長さがある。ルイスたちが小屋を建てたのは、集落から3kmほど山を登ったところだ。なだらかなおかげで、1時間かからずにその場所へたどり着く事ができる。ただ、谷の半分から山頂へと向かうところは急峻な切りこみとなっており、そのあたりには家は建てることはできないだろう。また、谷全体で木々もまばらにしか生えておらず、山一つ越えたところには、草も生えていない。山賊の小屋があるのは、その草が生えていない、ルイスたちから見て山の裏に位置しているところだ。
「山賊は、この谷の上半分と、向こうの山のいくつかを持っていると言っているみたい。それに、麓の集落も、山賊の所有領だということになってるみたい」
「それはないな」
シュトールの報告に対してルイスがあっさりと切り捨てた。それは、この王国全土が、爵位領、国王領、勇士団領、敢闘団領など、公的な組織が持っているというところにある。ちなみに、ルイスたちの出身の村は、国王領に分類されている。このため、山賊の私有地というのは、分類上存在しないということになっているわけだ。
そして、聞き捨てならないとルイスが判断したのは、山賊がこの谷や山のみならず、集落自体も持っているということだ。全ての人は、名目的には、国王の名の下に集うことになっている。実際には、各領ごとの所有者に忠誠を誓っていたり、税を納めていたりしているわけだが、各領の所有者も、国王なくして存在することはできない。そこから、国王が名目的に全土、全人民の所有者だということになっているわけだ。ダッケンバル4世は、それらのことを見越して、自身をここに派遣をしたのだろうかと、頭にわずかな思いが出てきたルイスであったが、すぐにそれを振り払った。
「山賊を追い出さない限りは、この他にも、集落も安寧ではあるまい。まずはそのことに集中しよう」
ルイスが言うと、全員がうなづいた。しかし、その方策は、いくら頭をひねっても、なかなか出てくることはなかった。




