第1話
「木登りに失敗した俺であったが、人生という木では、無事に上り詰めることができたようだ」
――ルイス・プロープグナートル
未来の皇帝であるルイス・プロープグナートルは、そのとき、14歳であった。幼なじみのシュトール・モノマキアが、その一行を、村の中で最初に見つけた。その日、世界の運命が変わった日、村はとても穏やかで、これから起こることを誰も知らなかった。
「おい、ルイス。誰か来たぞ」
村一番の古木である、別名「古株」の上に作っていた秘密基地。そこに、ルイスと幼なじみの4人が、ここ毎日の通りに、遊んでいた。
「誰かって、一体誰だよ」
ルイスが、最初にその一行を見つけたシュトールに聞き返す。
「見てみたら分かるって」
そこまで言われて、初めてシュトールのところに、ゆっくりと腰を上げつつルイスは向かう。他の3人も、何事かと思い、シュトールが指さしている方向を見た。
「あの旗の紋章って……」
「そ、我らが国王の旗印だよ」
ダッケンバル王国。それが、ルイスたちがいる村の統治国の名前だ。その名前を意識する時といえば、税金として麦を納める時ぐらいであるが、誰もが見たことがある紋章だ。太陽をシンボライズしたとされている、金色――どちらかと言えば黄色ではあったが――の真円だ。それを、どこから見てもはっきりと分かるように、その紋章を人の背丈の何倍も長い棒の上から垂らしていた。使われている布は陽の光に跳ね返って眩しい純白である。
「なんだよ、また税金の季節か?」
ルイスがぼやく。税は3公7民ではあるが、その3割も払うことができないことも、年によってはあり得る。なにせ、毎年の税はすでに定額となっており、それを支払わなければ、どこかに連れて行かれてしまうからだ。だが、今の季節は春と夏の間ぐらいの時期。税金を取り立てに来るのは秋も深まった頃だから、まだまだ先だ。
と、なれば、彼らは徴税士ではない。
「いや、それはないでしょ」
そう答えたのは、ランゲルス・アラケルだ。彼女は、ルイスの後ろからその行列を見つめていた。
「なら、見に行くか」
ルイスがそのまま秘密基地から滑り降りていく。
「置いていくなよ」
ルイスの後に、他の4人も続いた。