第14話
第9区へ着いた。先に着いたのは、ルイスたちではなく、ランゲルスたちの4人組であった。一番、ここに来ることを心待ちにしていたのは、なんといってもランゲルスだろう。そのためか、今も一番輝いた顔をしながら、店先を覗き込んでいる。
「なあ、何見てんだ」
そんなランゲルスの後ろから、暇そうにしているクリスが声を掛ける。他の二人はのんびりとした調子で、同じ店の中へと入って行く。どうやら、村にいる両親へお土産を買うつもりのようだ。だがランゲルスは、それを商売に結びつけようとしている。
「いい、この品物を10ラウドで買ったとする。それを村にもって行けば、いくらになると思う」
「さあな。そんなこと俺が知るかよ」
「きっと3倍にはなるわ。単なる需要と供給の話よ」
「……そういや、村に来る行商の人らに、いろいろ聞いていたな」
クリスは、見るからに楽しそうにしているランゲルスを止めることを諦めた。その時、クリスに声がかけられる。
「クリス、クリスじゃないか!」
その声は、まさしく4人がやって来た目的であった。ガッシャガッシャと鎧の音を立てつつ、駆け寄ってくるのはルイスだった。声に気づき、クリスが振り向くと、表情もはっきりと喜んだ。
「久しぶりだなぁ。会いに来たんだぞ」
「本当か。わざわざすまないね。他のみんなは」
クリスは店内を指差した。ちょうどそこに、エンディケールがやってくる。ルイスよりは静かではあるが、それでも音は響いている。
「ルイス、どうしたんだ」
「先輩、懐かしい顔を見つけたので、つい駆け寄ってしまいました」
そしてエンディケールに、店内から出て来た3人と、クリスを紹介する。
「ご紹介します、右から順番に、村の幼馴染の、ランゲルス・アラケル、エルラ・マギサ、シュトール・モノマキア、クリス・フルリオです。みんな、こちらは俺の先輩である、勇士エンディケール・ブニークトさん」
みんな、初めましてと、思い思いのタイミングで話す。2歳年上というだけで、勇士としての貫禄が出ている。
「初めまして。みなさん。ルイスの幼馴染とか」
「そうです、産まれてから、ずっと一緒にいました」
ランゲルスが少しばかりさみしそうに言う。それに気づいたエンディケールではあったが、今は仕事の途中である。そのことを考えて、ギリギリの話をする。
「いまは巡察をしているところで、一緒に行くことはできないのだが。どうだろう、巡察が終わってからなら3時間ほど時間がある。その時に一緒に回って行けばいいんじゃないか」
エンディケールの言葉に、ルイスが答える。すでに、顔は嬉しい気持ちでいっぱいのようだ。
「いいのですか」
「ああ、そこは自由時間となっているからな。すなわち、好きに行動することができると言うことだ」
「では早めに巡察を終えてしまいましょう。王宮前広場の勇士会館で集合がわかりやすいでしょうか」
王都で一番目立つ建物は、当然王宮である。だが、その正門前にある王宮前広場、そこにそびえ立つ色違いの左右対称の建物が、勇士会館と敢闘団本部棟である。王宮に向かって右手に純白の勇士会館が、左手に漆黒の敢闘団本部棟がある。ルイスは、地理が分からないであろう4人を案じて、目立つ建物に集合しようといっているわけだ。
「そうだろうな」
エンディケールが、簡単に答える。それで、全部が決まった。だが、別れ際に4人にルイスが言った。
「そういえば、ここ数ヶ月、この辺りは強盗が多く出るそうなんだ。早めに王宮前広場へ動いた方がいい。第1区にあるから」
「わかった。巡察がんばって」
ランゲルスがルイスの助言を聞いてすぐに買いたいものを決め、みんなをまとめて移動させた。ルイスは、その全てを見る前に、エンディケールと連れ立って巡察の続きへと戻った。