第114話
15分ほど部屋で待ったりしていると、ドン、ドン、ドンと3回ドアを叩かれる。
「ルイス敢闘団員様、即位式会場へお越しください。奥様もどうぞ。まもなく開会いたします」
「分かりました」
部屋でまったりと過ごしていたルイスとランゲルスであったが、その迎えの人の言葉でピシッと決めた。部屋の壁際にあった全身鏡で制服や準爵としての爵位章、敢闘団員としての敢闘メダルの位置を確認し、あっているとランゲルスとともに部屋のドアを開けた。子供が一人待っている。どうやら迎え人は彼のようだ。
「こちらでございます」
二人を先導するように、廊下を歩きだす。入ってきたのとは逆の方向だ。さらに階段を降り、1階へと戻ると、少し騒がしい部屋の様子が、耳を伝って分かる。どうやら一そろいそろっているようだが、肝心の王となるマウンダイス公爵が来るには、もう少しかかるらしい。戴冠式の舞台となる部屋は樫でできたドアに阻まれている。そこを5回ノックし、さらに叫んだ。
「ルイス・プロークグナートル敢闘団員様、妻たるランゲルス様、来られましたっ」
周りも驚くような声を出すと、ドアは内側へと開く。中は赤色カーペットが堂々と真ん中に敷かれており、それが一本の道となっていた。先には、3段の階段、そして玉座となる大きな椅子が一脚置かれている。カーペットは玉座の下まで続いている。その左右には、公爵としてのマウンダイスの紋章が飾られている。ただ、時間がなかったのか、後ろの壁は殺風景に木の板が張られているだけだ。
「お待ち申しておりました。こちらへどうぞ」
今度は大人が二人、両扉のところで侍している。席次表を確認しつつ、最前列左の通路側の2席に案内した。内側にルイス、外側にランゲルスを座らせると、その直後に扉から声が響き渡る。
「マウンダイス公爵閣下、同公爵騎士団長ケルトン・モノス殿が参られましたっ」
すぐにルイスたちを案内していた人が扉の所へと駆け寄り、ゆっくりとした動作でドアを開ける。冠はかぶっていない。ただ、赤色の座布団のようなクッションに乗せられ、捧げられつつケルトンが、マウンダイスの一歩後ろを付き従っている。ルイスの横を通った時、少しばかりなにか香りがした。バラのような香りだ。
「気をー、付けー」
扉の方向から大声が聞こえる。それを合図に、全員が立った。二人が歩き続け、階段の下でまずケルトンが右へと逸れる。段の上へと上がるのはマウンダイスだけだ。一段、一段と上がると、玉座の前でふと遠い目になる。それから居並ぶ配下の人らへと顔を向けた。