第10話
「……見てみろよ、空が青いぞ」
古木の上にある秘密基地では、ルイスを欠いた4人がいた。いつもリーダーとなっていたルイスがいなくなっただけだが、そのことは、4人にとって極めて重大な出来事であった。
あの戦争が終わると、農民たちはてんてんばらばらにもとの村に帰ることができた。だが、その中でただ一人、ルイス・プロープグナートルだけは、勇士見習いとなり、特別に勇士の学校へと入学することになった。それ以来、ルイスは村に帰ってきていない。
村の人らは、そのことが伝わったとたん、お祭り騒ぎになった。なにせ騎士団員に認められたということだからだ。この世の中、騎士団員は名誉な職業とされている。それは、国民に対して1%いないという希少性が大きな原因である。だが、その友人たちは、今いないという事実の方が、より重要であった。
「おお、ここにいたか」
誰も返事をしないままだったが、唐突に木の下から声をかけられる。ヒョコッと顔を出すのは、クリスだ。すぐに、ルイスの父親だと言うことが分かったので、なんですかと声を返す。
「だれでもいいから、手伝ってくれないか。そろそろ鶏が卵を産むんだ」
「はーい」
ちょうど暇を持て余していた面々だ。そのまま全員が木の上から降りてきた。
「これで最後」
鶏舎で、全員が卵を取り終わると、全員がかごいっぱいに卵を入れていた。
「よし、おつかれさま。いくつか持って行っていいぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
「こら」
一気に何個も持って帰ろうとしているランゲルスの手を、シュトールが止める。それを見ながら、クリスとエルラはかごの中から、3つほどをもらって、素手で持って帰った。
家への帰り道、村の広場に看板がかかっていた。
「ねえ、なにか張り紙があるよ」
それを目ざとく見つけたのは、エルラだった。その声に反応して、他の面々もその看板に近寄っていく。だが、文字が読めない彼らにとって、その看板が何かが分からなかった。
「あ、ねぇねぇ」
そこでランゲルスがすぐそばにいた人を呼びとめて、看板の内容を聞こうとした。
「ああ、王都でお祭りがあるんだと。今から1か月ぐらい後にな。なんでも、国王即位の式典らしいぞ」
「あれ、もう何年も前に即位したんじゃなかったけ」
クリスが聞き返す。その人は肩をすくめて分からないという表情をした。
「ねえ、行ってみない?」
「親がうんというかなぁ。これから豚の出産シーズンだぞ」
すでに行く気満々でわくわくしているエルラに対して、現実的な意見を投げかけているのはクリスだ。その言葉に、エルラはプゥと頬を膨らませたが、特に何も言わなかった。