クリスマスの夜に
送信ボタンを押すだけなのに、さっきから携帯の画面を見つめたまま
その指を動かせない。
話したこともほとんど無い、遠くからそのキラキラした笑顔をこっそ
り眺める事しかできない、そんな臆病な私を許してください。
臆病でも良いじゃない。
目を見て話せないの。――だからメールをするんでしょう?
「今日はクリスマスだね。外は雪が降ってるよ。あなたの家の方でも雪
は降っていますか?」
たったこれだけのメール。自分の気持ちも、あなたへの気持ちもどこ
にも入っていない、絵文字とかも無い淡白なメール。
でも私にはこれでも凄くドキドキしているのです。
あなたから見たこのメールは、ほとんど話したことも無いクラスメー
トの異性から届いた、ただの短いメールでしょうが。
私から見たこのメールは、勇気を込めた一字一句に大切な思いの込も
ったメールなんです。
だから怖くて送信できない。
返事が無かったらどうしよう。――読んでくれたら良いじゃない。
読んでもくれなかったら? ――あなたが思いを寄せるあの人は、そ
んな人では無いでしょう?
画面を見つめる私の携帯が着信を知らせた。誰だろう……
「メリークリスマス。こっちでは雪がたくさん降ってるよ! みんなの
家の方はどう?」
思いをよせるあの人からのメール。送り先は何人もいる、一斉送信だ
けど――
あなたからもらったメールは、どんな内容でも私はとても嬉しいのです。
こんな青春……もっと体験しておけば良かった。と悔やんでいる次第です。
主人公に性別は定めておりません。
少しでも共感できたなぁ……と思ってもらえることを願って・・・