28
「なんのために?」
「車のエアコンには」僕は自動車のエアコンの仕組みをコウに説明する。「ブロアモータという部品がある。ヘッドのない太鼓のような形をした物で、中心のモーター部分から放射線状に樹脂製の羽根が並んでいる。それが送風機になっているんだ。堀田はそこに毒物を封入したエアパッキンを放り込もうとしている。通常よりかなり薄めのフィルムでつくられたエアパッキンは、エアコンのスイッチが入れられた途端、ブロアモーターの回転で裂けて車内に毒ガスを撒き散らす」
「エアパッキンって梱包に使うプチプチのこと? じゃあ、あのカバさんは堀田さん……いいえ、堀田に殺されたの?」
「そういうことになるね」
「おかしいじゃない、堀田が恨んでいるとしたら高嶋でしょう」
作業を終えた堀田はドアを閉め、周囲を見回して施錠する。屋根つきの来客専用駐車場はセキュリティチェックのある守衛室からも本社社屋一階のオフィスからも死角になっていた。
「次はここ」
場所は井ノ口車体工業駐車場、コンクリート製の門柱に激突したライトバンの側面には若狭プレシジョンの社名と本社所在地、それに代表電話が書かれ、最下段に社用第二号車を示すNo.2が記されている。車はノーブレーキで突っ込んだらしく前方やや二義よりが激しく破損している。歪んだボディにめくり上げられたフロントガラス越し、大きく見開かれた稲本の眼はなにも捉えてはいなかった。
「タクちゃんがその必要はないと言ったのはこのことだったのね」
「うん。これも堀田の仕業だ。次にこれを」
情報の整理がつかないままのコウに見せたのはあるブログ記事だった。
■大ニュースです!
電気自動車(EV)の開発を手掛ける自動車部品メーカー「ミリオン」(鵜飼県鏡野市)が、破産申請の方針を固めたことがわかった。
関係者によると、中央郵政グループの郵便事業部に2011年度に集配用の電気自動車1200台を納入する契約(契約額約35億8600万円)を締結していたが、何らかの原因で順調に進まなかったためとみられる――
■この記事へのコメント
◎今回の事件は中央郵政の事業計画の甘さが原因ではないでしょうか。中長期経営計画、売上げに対する固定費比率、事業体質及びその進め方、管理体制、すべてにいい加減なのが中央郵政です。
最近、事業赤字が1000億になると発表されましたが、それなのに六千人近く臨時や委託社員を正規採用するとか訳が分かりません。
ミリオンとの契約変更及び解除は中央郵政からの一方的なものです。あれがサンライズやニッパツ相手の契約でも中央郵政は、ああしたでしょうか?やはり、お役所体質が抜けきってないんでしょうね。
Posted by 匿名 at2011年03月04日21:18
投稿ありがとうございました。匿名投稿ですが敢えて承認しました。中央郵政の関係者のコメントをいただけると幸いです。
Posted by 管理人 at2011年03月04日21:59
◎中央郵政関係者ではないですが、別件でミリオンに痛い目に合わされた者です。
そもそもミリオンにEVの技術などないんですよ。ヨーロッパの倒産したEVメーカーのキットで組み上げたゴルフカートだけが唯一の実績だったんですから。
今回のプロジェクトも全てが外注の言わば〝丸投げ〟。契約車両の変更もミリオンからの提案だったそうです。ですが中央郵政にも非はあります。ミリオンに技術力のないことを見抜けずに契約をしてしまったのですから。匿名さんの言われる通り、やはりあそこはお役所体質が抜けきれていないようですね。
Posted by 元ミリオンの関係者にして被害者 at2011年03月05日20:04
コメントありがとうございました。双方言い分はあるようですね。
Posted by 管理人 at2011年03月05日20:22
◎確かにミリオンの電気自動車は航続可能距離がスペックよりかなり短く、充電もきちんとできません。そのため現場からの評判は非常に悪いです。上のほうがやっていることなので一郵政事務官の私に詳細は分かりませんが喧嘩両成敗、どっちもどっちでいいのではありませんか?私にはこんなことで第三者の皆さんが熱くなれる方が不思議でなりません。
Posted by 一郵政事務官 at2011年03月06日22:10
コメントありがとうございます。クールなご意見ですね。コメントをしていただく方も管理人である私も、熱くなっている訳ではありません。より多くの意見に触れることで見識を深めようというのがこのブログの趣旨でございます。そこのところ誤解なきようお願いいたします。
Posted by 管理人 at2011年03月06日23:19
「なにこれ……」
わけがわからない――コウはそんな顔をしていた。。
「いいから全部読んでみろよ」




