ワタシと笹本くんとゴミクズビッチども。
「笹本くん笹本くん笹本くん笹本くん。あのね、笹本くんは殴られてもしょうがないよ? 笹本くんはどーしようもないクズだもん。あはは、姉弟揃ってクズで生きていてもしょうがないって天然記念物級だね」
笹本くんを脅した時、笹本くんは凄く動揺した。声が震えてて、今にも泣き出しそうだった。唇は何度もあれは仕方がなかったんだと動いた。消え入りそうな声で笹本くんはワタシに秘密にしてくれといった。秘密にしてくれるなら何でもしますといった。
その提案は凄く魅力的で、キラキラと輝いていたけど、でもそれよりもワタシは笹本くんを虐めることの方が興味があった。
絶望した。失望した。気持ち悪い。犯罪者。人殺し。キチガイ。異常者。変質者。変態。鬼畜。精神病患者。サイコパス。恥さらし。反社会人格者。
いろんな言葉で彼を罵った。心の底から嫌悪するように彼を罵った。侮蔑するように、蔑むように。
彼は放課後の傾いだ夕闇の中で声もあげずに泣いていた。ワタシに頭を踏みつけられながら、泣いていた。
彼は許して欲しい、許してやって欲しいと懇願する。昨日まで一番仲がよかった友人に、同級生に頭を下げて、同級生に頭を踏まれて、懇願する。
その異様な空間が堪らなくゾクゾクさせる。ワタシを。
法律だとか理性だとか、そういった現実から遥か遠くにあるような主従関係。奴隷とご主人様。
SMのような互いが互いを支配するものとは違う、一方的な搾取にワタシは酔っていた。
この整った顔を拳で殴りあげても彼は頬を赤く腫らして、うずくまるだけ。耳にはさみで切れ込みを入れても歯を食いしばるだけ。完全降伏だ。
瞳にあるのは何をされるか、何が起こるかという恐れ。一つ一つの音が恐ろしいようだった。
ワタシのはさみの音、床を歩く靴の上履きの音、ワタシの鼻歌。それらを正座してビクビクと耐えている。
悶えるような支配感。鳥肌立つほどの独占感。汗が噴き出るほどの鼓動の高鳴り。
自分の大切なモノ、自分の守りたいものを、あえて自分の手で壊す退廃的な欲求。本当は抱きしめて、今直ぐ助けてあげたいのに、あえて破壊するこの情動。
それがワタシを支配していて、ワタシが得たもの。
それは、完全な支配だった。
狂った姉を庇ったせいで、酷い目にあっている。彼が助かる方法は簡単だ。姉を切り捨てればいい。
だけど彼はそれができない。どうしてか分からないけど、姉を切り捨てられない。だから自分の人生を台無しにすることになっても、なると分かっていてもワタシに従う。
このことをあの狂ったアバズレが知ったらどう思うだろうか。自分以外の女に心を犯されていると知ったら。
想像すると可笑しいな、楽しいね、面白いよ。
一瞬の恋よりも、一生のオモチャ。
共存する愛よりも、片方が汚染する支配。
ワタシは最高のオモチャを手に入れた。