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幻想の名は愛。  作者:
6/32

ワタシと笹本くんとゴミクズビッチども。

「笹本くん笹本くん笹本くん笹本くん笹本くん笹本くうん! ワタシねえ、アレのこと、知ってるよう?」

 人の悩みは尽きることがないという。確かにそうだなあと思う。尽きることがあればどんなに楽だろうか。欲望と同じで、悩みに制限なんてないんだ。


 笹本くんの家から逃げ帰ったワタシは笹本くんを見る度に疑問と吐き気に忙殺された。彼の教科書やノートを潰す作業も手に付かないほどに、ワタシはワタシの中に巡る疑問に悩まされいる。

 そう、疑問……疑問だ。


 ニコニコ笑ってる笹本くん、真面目に授業を受けてる笹本くん、今日はペンがあるんだと笑う笹本くん。

 果たして彼はあの扉の向こうにある“モノ”のことを知っているのだろうか? 自分の姉の部屋にある“モノ”のことを理解しているのだろうか。知らないはずはないと思うけど、笹本くんはワタシの斜め上を行く馬鹿なので、もしかしたら知らないのかもしれない。

 しかし、同時に知っている、知っていてこうだという可能性もある。


 違うな、うん。

 ワタシはできれば笹本くんに知っていてほしくないと思っているんだ。笹本くんが扉の向こうにあるものを理解していて、それでいて、こうやって笑っているということを信じたくないんだ。

 そんな恐ろしいこと、信じたくない。こんな恐ろしいこと、あってほしくない。

 彼は絶対的に間抜けで馬鹿で頭が悪くて、でも不安になるくらい純粋で、子供のような人間でなければならないという価値観がワタシの中にあるのかもしれない。どうしてって、それはそんな彼が好きだから。そんな彼だからこそ好きになったからとしか答えようがない。

 幻滅なんてしたくない。


 でも、もし“アレ”が“ソレ”であることを否定した場合、笹本くんは何故、貧乏なんだろうという疑問が湧いて出る。

 笹本くんは本来、御曹司とかいう奴のはずで、コンビニの廃棄弁当を食べているような立場の人間ではないはずだ。笹本くんから拝借した財布の中にもお金は殆どなかった。笹本くんの出すゴミの中を調べても妙に生活感のあふれるものばかりで残飯類は見当たらなかった。生ごみも非常に少ない。お金持ちという割には妙に所帯染みているゴミばかり。庭には小さな家庭農園なんかあるし。


 何故、お金がないのか。

 何故、ゴミは殆どが笹本くんのもので、姉のものがないのか。

 何故、笹本くんの両親は家にいないのか。

 いろいろな疑問が脳内をぐるぐると駆け巡り、嫌でもその答えが影から顔を覗かせる。でもそんな答えはワタシの望む答えじゃない。

 思案の末にワタシはひとつの答えに行き着いた。


 どーでもいいや。

 うん、どうでもいい。


 笹本くんが知っていても知らなくても笹本くんは笹本くんだし、あの姉がトチ狂って誰か殺してしまったのだってどうでもいい。何を食べてて、どう狂っているのかだってどうでもいい。近寄らなければいいだけだし。


 それよりもワタシに重要なのは笹本くんのことが好きってことだけ。笹本くんとラブラブのイチャイチャのドロドロになりたいってことだけ。笹本くんをワタシだけのモノにしたいってだけ。

 いろいろ考えすぎて、疲れたワタシは元気よく笹本くんを脅して、元気よく笹本くんの心を蹂躙(じゅうりん)した。

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