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幻想の名は愛。  作者:
3/32

ワタシと笹本くんとゴミクズビッチども。

「え、これは……血? う、そ……え?」

 ワタシが何で、夜の校舎に忍びこみ、笹本くんの教科書を破いたり、ノートを水に浸したりなんかしちゃっているかとえば、笹本くんが上履きの異変を感じ取り、持ち帰るようになったから、としか答えようがない。


 笹本くんは気が弱い。いつもニコニコ笑っているけど、とっても臆病で、とても繊細だ。嫌なことも嫌だと言い出せないくらいに繊細で、自分が誰かから嫌がらせを受けているということも彼は言い出せないようだった。

 だから自分の筆記用具が誰かによって全部粉々に潰されていても、申し訳なさそうにワタシに「今日も筆箱を忘れてしまったからシャーペン貸して」と言う。


 荷物をすべて持って帰ればいいのに、笹本くんは学習能力というものがないらしくて、ペンやノートを置いて帰宅してしまう。だからまあ、ワタシもこうして笹本くんに嫌がらせができるわけだけど。

 ああ、でもワタシは間違っても笹本くんのことが嫌いなのではない。むしろ、巻舌でラヴ。

 笹本くんもワタシのことは一番仲がいい友人くらいには思っているはずで、ワタシもそれ相応に笹本くんの要求に答えられるくらいの器量はあると思う。でもそれ以上の仲を勝手に望むワタシとしては、その関係では不満なのである。

 だからワタシは笹本くんにもっと頼れる相手、この人がいないと生きていけないくらいに思われるよう、こうして日夜笹本くんへの嫌がらせに勤しむのだ。


 ワタシの愛してやまない笹本くんは正直、馬鹿なのであからさまにアタシに家の鍵を盗まれてもあまり気にしないし、毎朝同じ時間に同じタイミングで会う、隣の席の自分の名前を連呼しくる女の子につきまとわれていたとしても、あまり不思議には思わない。

 正直何度も、これはやり過ぎじゃないかとか、バレたかなと思うことがあったけど、その都度、笹本くんはヘラヘラ笑っていて気にも留めていなかった。正直ちょっぴり不安にもなる。


 周囲には笹本くんと付き合っているらしい空気は出しているものの、やはり笹本くんのフェロモンと草食動物的な雰囲気に胸をズキュンとやられてしまう子は稀に発生してしまうらしく、ワタシに喧嘩を売ってくる人も少なくないけれど、一言ブスといってやるだけで割りと対処できる。

 ワタシ、天然ぶってますけどそれなりに自分の武器のことは熟知してます、ウフフ。


 しかし、最近ワタシの事を笹本先輩にチクッた輩(多分、この前の大根足のブス)がいるせいで、このじゃれ合いも控えめにしなくてはならないっぽいのが何ともなあといった感じ。

 笹本先輩は笹本くんの実の姉で、普段はおっとりしたお嬢様然としているのに弟の事になるとキチガイじみた行動を平気でする人で、数ヶ月前笹本くんをからかった同級生は今でも入院中。

 相手を殺すと言ったら本当に殺すような、有限実行を信念としているっぽい人。それが笹本先輩。別名アルティメットブラコン。命名はワタシ。


 そういうこともあったから、笹本くんに表向き手を出す人はいないし、からかう人もいないし、笹本くんもそういうショッキングな場面を見ちゃったから誰かから虐められているということも公に出来ないでいるらしい。やーさーしーいぃー!


 ま、それで普段のスキンシップを制限されたワタシは笹本くんに貸したペン型ボイスレコーダーで、いつものように笹本くんの身の回りのことをこっそりと調べているんだけど、最近なにやら数学教師の行き遅れ淫売ゴミクズビッチに口説かれているらしく、仕切りに呼び出されては「いいだろう? 悪い話じゃないと思うぞ」とか何とか言われていたりしてた。気色悪さがまさに鳥肌モノ。

 なのであの能面ぶっちょ面の腐れビッチを笹本くんの姉に告げ口したら、二人とも潰し合って面白いんじゃないのかなと思ったワタシは笹本くんの家が完璧留守の時を狙って、家に忍び込んで笹本先輩の部屋にデータの入ったDISCを置こうなんて考えて、実行し、実行中に固まった。


 笹本くんの家の廊下は何かを引きずったような黒い跡があって、壁紙には黒い染みがあって、それは笹本くんの姉の部屋へと続いていた。

 ドアの隙間から絶え間ない悪臭が漂ってくる。黒ずんだ道の答えがそこにある。銀色のシンプルなドアノブの向こう側にそれがある。


 ワタシにはそのドアを開く勇気はなかった。

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