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幻想の名は愛。  作者:
27/32

ワタシと。

 もう、嫌だ。

 ワタシが何をしたって言うの? なんでこんな痛い目にあわなくちゃいけないの? ねえ、助けて笹本くん。

 ワタシはただ幸せになりたかっただけなのに。

 なのにどうして?

「自分勝手な幸せは他人の不幸を積極的に願った結果だ」

 誰かがそう呟いた。

 酷いよね、笹本くん。自分達が幸せになることがどうしていけないっていうんだろうね。幸せになるために誰かが不幸になるのなら、仕方が無いことなのに、どうしてそんな綺麗事をいうんだろうね。みんな誰かの不幸の上に成り立っているはずなのに、どうしてなんだろう? どうしてそれが間違ってるなんて言えるんだろう。


 昔が一番幸せだったって気がする。笹本くんと話すようになったばかりのあのゆっくりとした時間が一番幸せだった気がする。

 まだその頃はあの狂った女が出しゃばってくる前で、ワタシも笹本くんも希望があって、アバズレが笹本くんにちょっかい出す前で、好きなコンビニのお菓子で盛り上がれるようなそんな時間だった。

 それなのに。


「先生、言ってることがちょっと分かんないです。あの、どういうことですか?」

「君は絶対に死なないから気にしないでいい」

「そういうことじゃないんです。何で三人から一人選べなんていうんですか? 先生、本気でいってますよ! 僕には分かるんです!」

 あ、笹本くんだ。

 あれ何でワタシ、手錠なんてしてるの?

 笹本くん、一緒に帰ろ。

「仕方が無いんだ。私たちはみんな欲しがりで嫉妬屋なんだ。誰もが君を渡したくないと考えてる。だから、君に選ばせる。単純な話しだ」

「……訳分かんないですよ。みんなで仲良くできないんですか?」

 できるわけがない。

「できないだろうね。現に見るんだ。みんな互いを憎み合ってる。彼女は君の姉に暴力を振るった。私は彼女たちをここに閉じ込めた。そういうことなんだよ。さあ、早く選ぶんだ。早くしないと天井が降ってくるよ。君が選ばないというのなら私が破滅のボタンを押すだけだ」

「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ! 誰か選んで、誰かを殺せって言ってるのと同じですよ。僕は、そんなの嫌だ! 絶対、嫌だ!」

 あははははははははははははははははははははははははははは!

 笹本くん。

 ねえ、笹本くん。

 笹本くんは相変わらず、考え方が甘いよ。

 それ、私も賛成。

 あのね、笹本くん。

 幸せって他人の不幸の上に成り立ってるんだよ。

 笹本くんだって、お父さんとお母さんの不幸の上に成り立ってるじゃん。

 ねえ、先輩? ねえ、先輩?

「そんな……そんな」

「……君が迷っているのなら一つ選択肢を減らしてやろう。君の姉はここで死ぬのが一番正しい。あれはどうあってもやはり隠しきれない。君たち姉弟は隠したつもりでいるかもしれないが、すぐに公の下に晒されるだろう。なあ、笹本姉。お前も分かっているだろう? 弟を守るには自分がここで死ぬというのが一番だと。弟の将来を考えるのならそれが一番だと、お前も分かってるはずだ。ここでお前が死ねば、少なくとも彼は被害者のままでいれる」

 笹本先輩は傷だらけ体で起き上がると、かび臭い器具庫から笹本くんを見つめた。どうしてそんなにボロボロなの? 転んだの?

 なんてね。

「やだ、僕は……! 嫌です! 誰かが死ななきゃいけないなんて、嫌だ! 姉さん、いいよ。僕は耐えられるから。僕は我慢できるから、だから死ぬなんて言わないでよ! 僕を守ってよ、いつもみたいに。いつまでも。あの時みたいに、いつまでも側にいてよ」

 あははは、だからさ、だからさあ笹本くん。

 笹本くん、だから甘いって。

 先輩が笹本くんを守らなきゃいけないなら、今ここで死ななきゃ駄目なんだよ。

 もしかして、笹本くんはあれが永遠にバレないと思ってたわけじゃないよね?

 いつか見つかっちゃうって分かってたんでしょ?

 見つかっちゃったら、笹本くんはオシマイだけどさ、ここで先輩が死ぬならまだ道はあるんだよ。

 だって犯人が死んじゃったら、どうしようもないじゃん。

 犯人が死んじゃったらどうとでも解釈できちゃうんだよ、どうとでも都合が合わせられる。

 ワタシは少なくとも笹本くんがどうこう言われることはないと思うな。

 そういうと笹本くんは狂ったように頭を掻きむしり、獣のように唸った。あはは、笹本くんのちっぽけな脳みその許容限界を超えてるんだ、きっと。笹本くん、馬鹿だからね。

 いいじゃんいいじゃん、なんとなく分かってきた。これで確立は三分の一から二分の一になった。笹本くんは選べないから先輩に任せるでしょ? どうしたらいいとか聞くでしょ?

 で、先輩は見た感じ死ぬ気だし、死ななきゃいけない雰囲気だし、面白いなこのゲーム。

 なんとなく分かってきたよ。

 ようはあの年増は自分が選ばれるように上手く誘導したいわけなんだね。その為にいろいろ用意してきたみたいだね。

 でも分かってないよ。全然、分かってない。笹本くんのこと、全然まったくこれっぽっちも分かってない。

 あはは、笹本くんが選べるわけないじゃん。

 これ、ワタシの独り勝ちかな?

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