ワタシと笹本くんとゴミクズビッチども。
「ばっかだなあ、ワタシ。ワタシらしくないなあ。……今のままでもいいじゃん。楽しいし、彼を独占できるし、文句なし……なのに、本気出しちゃうなんてさ」
ワタシの周りには何でもあった。本当に何でも。
家は中流階級で不満はなかった。容姿が良かったから子供の頃から可愛がられてきたし、特をすることが多かったし、勉強も人並みにできたから何も苦労することはなかった。
美しさのパーセンテージは社会生活を営む上での難易度設定に密接に関わっているとワタシは知っていたわけだ。
簡単にいえば美人は得をして、不細工は損をする。
馬鹿は下に見られて、貧乏人は貧しい生活をして、頭のいい人間とお金のある人間はその逆を行く。
褒められるのは好き。
容姿だけと言われるのが嫌だから、性格もそれなりに作ってきたし、女子特有のグループ派閥にも注意して生きてきたし、一言も悪口もいわない生き方をしてきた。告白をされれば、今特にそういう気持ちはないから、と優しく断った。
どんなにキモチのワルイ相手であっても、だ。
笹本くんに興味を持ったのは、ちょっとした遊びからだった。
笹本くんは当初からワタシには全く興味がなさげで、そもそも恋愛というモノに疎いようだった。まあ当時からあの姉が“ああだった”のだからそれもそのはずで、彼は草は食む水牛のごとくのんびりと生きていた。それがワタシのプライドを刺激した。
当然、ワタシはクラスで一番の人気があって、どんな男子も少なからずワタシのことを意識していた。なのに笹本くんはワタシの隣の席になっても全く態度は変わらず、モーションをかけても態度は一貫して変わることがなかった。
ホモかゲイか、小児性愛者かと疑ったこともある。でも違う。
分かったことは頭が悪いことと、お人好しだということだけ。
裏表のない人間で、頭が悪いから、よく人に騙されていたし、騙されている、損をしているということに気がつかない人間だった。
いいように扱われて、いいように切り捨てられる、そういう人生が待っているタイプの人間だった。
少し考えればその矛盾や自分への損に気づけそうものなのに、彼は相手の言葉を聞いてしまう。
そこまで頭が回らないのだ。過保護に育ってきたせいなのかは知らないけれど。
クラスの男子がいつものように笹本くんにお金を借りていた時、それが運命の分かれ目だったような気がする。合わせて十回以上の借りがあるのにまだ借りようとする男子を注意した時、笹本くんがワタシに笑いながら、ありがとうと言った時、もう既に夢中だった。
欲しいと思った。
今まで欲しいと思った物は全て手に入れてきた。それだけの頭脳と容姿がワタシにはあったから。
だから手に入れられない存在だと思った時、非常に苛立った。我慢をしなければいけないという初めての経験にワタシは耐え難い苦痛を感じた。
彼とおおぴらに付き合うことはできない。でも欲しい。彼が欲しい。
あのイカれた女さえいなければ、あのイカれた気狂いの姉さえいなければ、全てが全てうまくいくのに何で。
手に入らないなら、いっその事、壊れてしまえ。
願いが叶わないなら消えてしまえ。
ワタシの手で、私の牙で噛み砕かれろ。
だから虐める。だから彼を壊す。
欲しかった二人だけのヒミツ。二人だけの関係。
思わぬ方向でそれは叶った。それが嬉しい。
でも、彼はワタシ以外にも関係を持っていて、体を売っていて、ワタシに助けを求めた。
腐った聖職者に犯され、狂った姉に犯されて、嫉妬にまみれたワタシはどうすればいいのだろうか。
いや、もう答えは出てる。これほどのチャンスはもう無いことは分かり切ってるから、することは決まってる。
諦め切ったそれが再び、ぞわぞわと鳥肌を穿ちながら駆け上ってきてる。無視はできない。する意味が無い。だって、だってそれってつまり、うん、それはそれは。
あの二人を止めることができたら、笹本くんとワタシはまともに付き合うことができるってことだから。
だからワタシはあの二人を。
